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三浦涼介さん主演「オイディプス王」インタビュー ギリシャ悲劇の最高峰「可能性と希望」に挑む再演

三浦涼介さん=松嶋愛撮影

ヘアメイク:春山聡子/スタイリスト:ゴウダアツコ

1ミリでも希望を残して

――初演からおよそ1年半ぶりの再演になります。

 こんなに早く再演する作品はなかなかないと思いますし、僕自身、今までいろいろな舞台に立ってきましたが、 再演する機会もなかなかありませんから、素直に嬉しく思います。

 前回と同じように台本を開き、作品や役に対して日々格闘していますが、初演の頃よりもネガティブに感じる部分は減ったかもしれません。やはり初演時は、この膨大なセリフ量に圧倒され、とんでもない作品の主役ということでプレッシャーも大きかったですから。今回改めて「オイディプス王」と向き合ったときに「これを自分はやったのか」と驚きつつも、あの日あの場所でオイディプス王として無事に千秋楽を迎えられた誇らしさも感じます。

 今は再びオイディプス王として生きられる日を心待ちにしています。

――『オイディプス王』は紀元前から2500年にわたり世界中で上演され続けています。三浦さんはこの作品のどんなところに惹かれていますか?

 僕は演出家の石丸さち子さんのもとでオイディプス王を演じています。過去作がどこまで悲劇的だったのか、お客様がどう感じられているのかは分からないのですが、僕は、悲劇の中でも「生きる」という選択をしたオイディプス王に、最後に1ミリでいいから希望を残して終わりたいと思って、石丸さんにそうお願いしました。

 僕は「オイディプス王」を読んだときに、確かに悲劇だけど、人間としての生き様といいますか、生きることを選択したところに可能性と希望すら感じたんです。だからそこに魅力を感じています。

――稽古を重ねる中で、可能性や希望を感じたのですか?

 たぶん最初に本を読んだときからそう感じていた気がします。家族でも近しい友人でも、大切な人を失ったときに、残された人間は何を感じ、何を考えるのか。生きるということ、この世界に生き残れたということに何か希望が残るといいなと思ったんです。

――演出の石丸さんとはこれまで何度もタッグを組んでいます。改めてどんな演出家だと思いますか?

 人に対しても作品に対しても、愛情にあふれ、とにかく演劇を愛している人だと思います。本当に厳しいところもありますが、僕は石丸さんの愛情しか感じていません。

 僕は蜷川幸雄さんのもとでお仕事をしたときに、「お芝居ってこんなに楽しいんだ!」と思わせてもらったんです。でも蜷川さんが亡くなって、これから先どうしたらいいんだろうと途方にくれていた時期があって。そんなときに石丸さんと出会いました。

 石丸さんは「涼介なら大丈夫だから」と僕を信じて、僕を奮い立たせてくれます。彼女のおかげでまた改めてお芝居の楽しさ、厳しさや怖さを知りました。本当にいろいろなことを教えていただいています。

――お互いに信頼しあっているのですね。

 僕が石丸さんに何を渡せているかは分かりません。ただ、僕は僕なりに精一杯やるだけですし、できることなら石丸さんが叶えたい夢を叶えてあげたいとは思っています。それは役者として、人間として。せっかく出会えたのだから。

膨大なセリフの先にあるもの

――三浦さんご自身はギリシャ悲劇についてはどんな印象を持っていましたか?

 他の役者さんが演じてこられたギリシャ悲劇の作品をそこまで多く観たことはないのですが、平幹二朗さんの作品を観たことがあります。平さんが出てきた瞬間に、照明が変わったのかなと思うぐらい、オーラというのか、華というのか、圧倒的な存在感があったんです。それがとても衝撃的で、忘れられないです。

 僕も内容が分かっていたかと問われると自信がないのですが、それでも圧巻の舞台で、前のめりで観ていたことは思い出すんです。「ギリシャ悲劇をやりたい」という思いより「ああいう華のある舞台人になりたい」と思いました。

 そして今、いざ自分がこうしてオイディプス王として舞台に立つわけですが……。僕だからできるオイディプス王をお見せしたいと思っています。この作品は膨大なセリフがあって、それだけでも魅力の一つですが、再演にあたっては、そこから溢れる何かが伝えられたら嬉しいですね。

――確かに膨大なセリフ量ですし、現代ではあまり使われない言葉遣いなので、俳優としてはとても大変ですよね。

 そうですね。 やはり文字に追われてしまうと、気持ちがどこか、おいてけぼりになる瞬間があるんです。それを1ミリもなくしたいというのが今回の目標です。言葉が難しくても、そこに気持ちがセリフにちゃんと乗っていれば、お客さんに伝わると思うので。

――ちなみにセリフはどういう風に覚えるんですか?

 僕はひたすら口に出しています。どんな状況でもセリフが出るように、ぶつぶつ呟いているので、傍から見ると怪しい人だと思います(笑)。「役者あるある」かもしれないのですが、覚えたと思っても、いざお稽古場でそのシーンをやると、セリフが出てこないことがあるので……。

『オイディプス王』の初演のお稽古のときは、朝早く起きて、近所の公園を歩きながらセリフをぶつぶつ呟いて、3周したら自宅に戻って、お稽古場に行くというルーティーンをやっていました。

――三浦さんの「代表作」と語る声もあるほど、2023年の初演は好評でした。改めて本作が俳優・三浦涼介さんにもたらしたものは何でしょう?

 なんでしょうね.……。きっと僕はこの世界に入っていなければ何者にもなれなかったと思うんです。自分に自信が持てず、いつもどこか一人ぼっちな感覚がありました。でも、この世界に入ってから、スタッフの皆さん、共演者の皆さん、そして応援してくださるお客様のおかげで、 僕が何者かになれる瞬間があるわけです。

 役やキャラクターの人生を知ること、その歴史を歩むことで、自分を何者かにしてくれて、自信を持たせてくれるという感覚。それはこの仕事を始めたことで知ったことです。だから、もたらしたものは何かと言われたら、「何者かにしてくれた」ということだと思います。

 精一杯努力して演じたものを、何らかの形で「すごかったよ」と言っていただいたり、評価していただいたりするのは嬉しいですし、そう言っていただくことを目標にするのも俳優といては大切だと思います。初演は初演で精一杯やりましたが、「代表作」とするのはおそれ多いです。

――『オイディプス王』は作品が作品だけにプレッシャーも大きかったと思いますが、俳優としての自信が生まれたのでは?

 いやいや、僕は常に自信はありません。

 特に「オイディプス王」のお稽古期間中は、僕は精神的にも肉体的にもボロボロで、スタッフの皆さんや共演者の皆さんに支えられて、何とか舞台に立てました。

 初日の幕が開くその瞬間まで、僕は、支えてくれる人たちを後悔させたくないと強く感じましたし、「三浦がオイディプス王でよかった」と思ってもらいたいとは思っていました。皆さんに支えてもらった。だからこそ、オイディプスになったときだけは自信を持てたかもしれません。おかげさまで。

原作はボロボロになるまで読む

――ところで三浦さんはふだんどんな本を読みますか?

 移動中や寝る前にちょっとだけ小説を読むことはありますが、人生観が変わった本やいつも持ち歩いている本は思いつかないです。

 ただ、役者をやっていると、いろいろな本に出会います。今回の『オイディプス王』もそうですし、漫画が原作の2.5次元作品などに出演する際は、その原作をボロボロになるぐらい読みます。

 お稽古中に少し整理をしたいと思って原作を読んでみると、いろいろメモがしてあったり、思わぬ場所に線が引かれていたり、お風呂で読んだのかふにゃふにゃになっていたりしています(笑)。

――基本的にはお仕事に関連する作品を読むことが多いのですね。『北斗の拳』が原作のミュージカル「フィスト・オブ・ノーススター」や舞台「呪術廻戦」などにも出演経験がある三浦さんですが、基本的に演じる役の目線でその原作を読むのですか。

 そうですね。作品の出演が決まって、上演台本でお稽古をするまでの間に、原作に触れる機会が多いので、どうしても演じる役の目線で読んでしまいます。

 どんな立ち位置のキャラクターなのか、どういう立ち姿で、どういう言い回しをするのか、細かく見てしまいがちなんですが、最初に作品に触れるときは、なるべく作品全体を楽しみたいと思っているので、ストーリーに没頭して読み通してしまいます。

――普段なかなかギリシャ悲劇に触れてこなかった方々も、三浦さんが出演するということで、改めてギリシャ悲劇に出会うきっかけになりそうです。

 そうですね。東京公演が行われる、パルテノン多摩(多摩市)はとにかく素敵な劇場で、劇場内だけでなく駅から見える景色なども大好きです。

 照明、舞台美術、衣装やヘアメイクといったすべてのスタッフワークが、観客を「オイディプス王」の世界に引き入れてくれます。役者について言えば、ギリシャ悲劇はやはりその膨大なセリフで“聞かせる”のが魅力の一つだと思いますし、目で観ても耳で聞いても魅力がたくさん詰まっている舞台です。ぜひそれを劇場で堪能してください。