ISBN: 9784106039010
発売⽇: 2023/09/19
サイズ: 20cm/286p
「京都」 [著]有賀健
日本文化の源として世界中の人々を惹(ひ)きつけてやまない京都。関西圏の住民にとっては行政や産業の中心都市でもある。この二面性ゆえ、近年の都心回帰傾向に浴せずかえって人口を減らし、未来を危ぶまれているのもまた、京都の現実だ。本書では京都で学び京都で過ごした経済学研究者がこの苦境の原因を分析し、大胆な規制緩和と京都像の再構築というラディカルな処方箋(せん)を提示する。
話は、産業立地や都市構造という地理的視点から出発する。市部中央に「田の字地区」が成立し、開けているのは南方のみで、水の確保も簡単ではない。しかしこの地理的条件があってこそ平安京が造営され、その後の歴史ができた。この地理と歴史の二つを、軛(くびき)とみるか遺産とみるかで京都像は大きく変わる。
著者は軛とみる。一般に交通・建設技術の発展によって、今では地理的条件は都市の成長にとって本質的な制約にはならなくなってきた。ところが京都は時代に抗するかのように、最新技術に背を向ける。近世までの街区が「京都らしい」景観をつくっており、それを守ろうとすれば新技術が導入できないという考え方があるからだ。興味深いのは、こうした京都らしさは意外に古くないし、観光業の産業的広がりには限界があるとする著者の警告だ。思い切って二つの軛を解き放てば、若年層や女性が多いという他都市が真似(まね)したくてもできない有利さを十分生かせると力説する。
経済学研究者は歴史を単純化しすぎる傾向があるし、京都の奥底に眠る怨念のような感覚を無視しがちだ。しかし、人々の生活を支える都市のバイタリティは、どれだけ効率的に雇用と所得を生み出せるかにかかっていることも直視すべきだ。京都が産業都市としての厚みを失い、古都たる京都が維持できるか瀬戸際にあるという著者の危機感は、賛否はともかく、京都を愛するすべての人々に共有されるべきだろう。
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ありが・けん 1950年生まれ。京都大名誉教授。専門は応用経済学。共著に『Internal Labour Markets in Japan』。