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関根健一・大修館書店編集部「無礼語辞典」 ムッとさせがちなあなたへ

 この本は「思いのほか」「やばい」です。もはや「反則」だと言えるでしょう。

 ……あれ? 絶賛したつもりが、そこはかとなく無礼な響きになってしまいました。

 たぶん私たちは、日頃から自覚がないまま、相手をムッとさせたり不快にさせたりする「無礼語」を口にしています。

 冒頭のカギカッコの中の言葉も、常に悪い意味で使われるとは限りません。「思いのほか」は、「仕事が思いのほかはかどった」だったら、嬉(うれ)しい気持ちを表す言葉になります。

 しかし、ここでは「たいして期待してなかったけど」という無礼な意味に大変身。いや、あくまで例文であり、実際は思ったとおりの面白さでした。

 「やばい」「反則」も、最近はプラスの意味でも使われますが、本来はマイナスの意味です。ケナされたと受け取られても文句は言えません。

 著者の関根健一氏は、元読売新聞東京本社編集委員で、現在は日本新聞協会用語専門委員などを務める言葉のエキスパート。本書には約600項目の「無礼語」が収録され、どういう流れで使われると、どう無礼なニュアンスになるかなどが、具体的に説明されています。

 うっかり口にした「無礼語」で、人間関係が壊れることは珍しくありません。そんな悲劇を防ぎたい人や、相手を大事にする言葉選びをしたい人が、本書を手に取っているのでしょう。無礼を考えつつ、日本語の奥深さと面白さも堪能できます。

 この辞典は「使用禁止語リスト」ではないと、著者は言います。そこは重要なポイント。「無礼語」への警戒心をふくらませるだけだと、安全第一のよそよそしい会話しかできなくなってしまいます。

 「無礼語」の向こうに見えてくるのは、相手を思いやるやさしさと自分が使う言葉に対する謙虚さ。丁寧に言葉を使えば、きっと丁寧な人間関係が築けます(ここで「ご丁寧な」と言ったら台無しですね)。=朝日新聞2023年12月9日掲載

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 大修館書店・1980円=2刷1万5千部。9月刊。昨年刊『品格語辞典』も5刷2万1千部。「より配慮した言い換えや改まった言葉選びに役立ち、幅広い層に届いている」と担当者。