1. HOME
  2. インタビュー
  3. 著者に会いたい
  4. スヴェン・ベッカートさん「綿の帝国」インタビュー 「強要と暴力」の側面に光 

スヴェン・ベッカートさん「綿の帝国」インタビュー 「強要と暴力」の側面に光 

スヴェン・ベッカートさん

 米国の通商政策を担当していた数年前、トランプ前大統領が仕掛ける「貿易戦争」を報じながら、いつももどかしく感じていた。トランプ氏の登場は、グローバル資本主義の課題の一つの表出にすぎない。その表面を追うだけでいいのだろうか。

 悩んでいた時にこの本に出会い、一気に視界が開けた。「綿(コットン)」抜きに米国の歩みは理解できず、資本主義に駆り立てられる世界のいまも捉えられない。そう痛感させられた。劇的な世界観を織りなす歴史家の原点は、故郷の町にあったという。

 冷戦のさなか西独オッフェンバッハに生まれた。歴史に魅了された少年は、高校生になると、ドイツ近代の負の側面を「ナチスのせい」と片付ける授業に疑問を持つ。町のユダヤ人社会の調査に没頭した。高校卒業後、町出身のユダヤ人に会うため数カ月間、イスラエルに滞在した。

 「故郷の町のきわめてローカルな研究から始まり、グローバルな視点の研究へと進んできた。たどり着いたのが、綿がグローバル資本主義の発展に果たした役割だったのです」

 綿というモノは人を心地よい感触で包み、絶え間ない生産性の向上と技術革新を生み出す一方、人をモノとして扱う奴隷制や植民地支配、戦争、共同体の破壊ももたらした。その「強要と暴力」の側面に光を当てる。「資本主義への移行は自然なものではなく、むしろ不自然な事業だった」「人間にとって天地がひっくり返るようなことだった」とみる。

 市場経済の発展を、非連続の「芋虫の変態」に例えた経済学者ポランニーの議論を思い起こさせる。今後も強要と暴力をはらみ、社会を駆動し続ける資本主義。我々は飼いならせるのか。「解決のための科学技術は持っている。それが私の悲観主義を少し、和らげています」と語る。(文・青山直篤 写真・植田真紗美)=朝日新聞2023年12月16日掲載