- 小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本(小杉拓也著 ダイヤモンド社)
- 大ピンチずかん(鈴木のりたけ作 小学館)
- 変な家(雨穴著 飛鳥新社)
- 変な絵(雨穴著 双葉社)
- 街とその不確かな壁(村上春樹著 新潮社)
- 汝、星のごとく(凪良ゆう著 講談社)
- キレイはこれでつくれます(MEGUMI著 ダイヤモンド社)
- ポケットモンスター スカーレット・バイオレット 完全ストーリー攻略(元宮秀介&ワンナップ著 オーバーラップ)
- パンどろぼう(柴田ケイコ作 KADOKAWA)
- 地獄の法(大川隆法著 幸福の科学出版)
- 日本史を暴く(磯田道史著 中公新書)
- TOEIC L&R TEST 出る単特急 金のフレーズ(TEX加藤著 朝日新聞出版)
- 頭のいい人が話す前に考えていること(安達裕哉著 ダイヤモンド社)
- 人は話し方が9割(永松茂久著 すばる舎)
- パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち(柴田ケイコ作 KADOKAWA)
- やる気1%ごはん(まるみキッチン著 KADOKAWA)
- パンどろぼうとほっかほっカー(柴田ケイコ作 KADOKAWA)
- 20代で得た知見(F著 KADOKAWA)
- くもをさがす(西加奈子著 河出書房新社)
- バカと無知(橘玲著 新潮新書)
※2023年ベストセラー(22年11月22日~23年11月21日、日販調べ、総合部門)
昨年、書店店頭を賑(にぎ)わせていたのは「年代本」。70代のうちにあれをやっておくべし、80歳からはこれを、と言われれば、誰もが歳(とし)を重ねるたびに未体験ゾーンに突入する以上、不安になる。その手の刊行物の勢いはさすがに落ち着いたが、この高齢化社会、同じようなブームが繰り返しやってくるのだろう。
今年のベストセラーを眺めていると、高齢者向けよりも、むしろ、児童書や絵本の存在が目立つ。(1)のタイトルを確認し、早速、頭の中で「19×19」に挑戦した人もいるだろう。19に20をかけて380、そこから19を引けばいいはず、と思ったのだが、本を開くとそうではない。なるほど、確かにこのほうが簡単。「小学生がたった1日で」「かんぺきに」というタイトルの強さが光る。小学生が率先してねだる本ではないから、保護者が買い求めたのだろう。
日常に潜む「大ピンチ」の瞬間をユーモラスに描いた(2)は、大人も子どもも楽しめる作品。バッグの奥から昔のおにぎりが出てきた悲劇、洗濯機の後ろに靴下が落ちた時の動揺……ピンチは一人で直面すると絶望するが、共有するとなぜか愉快。(9)(15)(17)と3作品もランクインした絵本シリーズ、どろぼうしたパンが「まずい」と落ち込む表情がいい。「ピンチ」も「どろぼう」も、どうにもうまくいかない気持ちをくすぐってくる。
ハードルを低く
村上春樹6年ぶりの長編小説(5)、本屋大賞受賞作(6)を上回る売れ行きを記録した小説が(3)(4)。(3)ではまず、奇妙な間取り図が示される。そこには、中に入れない空間がある。一体何があるのか。会話形式で進み、間取り図が頻繁に挟み込まれる。ミステリ作品としてはいささか丁寧すぎる内容だが、「間取り」や「絵」で読みやすさを保証していく。最後まで読み切ってもらうためにハードルを下げる作りが徹底されている。
2019年に刊行された(14)が今年もベスト20にランクインしているが、この手の本が並ぶコーナーに行くと、とにかく相手によく思ってもらおうと試みる本が目立つ。手元にある(13)のオビ文には「今いちばん売れてるコミュニケーション本」と書かれている。そんなジャンルがあったのか。コミュニケーションって、相手がいてこそ成立するものだが、あらかじめノウハウを体得しておくことが求められているのだろう。
読むと、「コミュニケーションコスト」という言葉が出てくる。「言語化のコストを相手に支払ってもらっている限り、“頭のいい人”として認識されることはありません」とのこと。自分はそういう人になりたいと思わないので、その時々に応じたコミュニケーションを相手と模索したいし、楽しんでいきたい。
移住したカナダで乳がんと宣告され、治療に励む日々を綴(つづ)った(19)では、揺れ動く感情を支えるように、著者が大切に読み進めた本からの引用が記される。まるで本と対話するかのよう。生きていること、「それは、それだけで、目を見張るようなことだと、私は思う」という言葉に、生き方の正解や平均値を探さない、その人ならではの歩みがあると後押しする逞(たくま)しさと優しさがあった。
届け方が変わる
ロシアによるウクライナ侵攻が続き、ハマスの襲撃を契機に始まったイスラエルによるガザ地区への惨烈な攻撃など、おぞましい光景を繰り返し目にした。国内では、人々の暮らしよりも自らの利益を優先する政治家の振る舞いが目立った。思考を奪われないようにするため、自分の体幹を保つため、いくつもの本を開く1年になった。
100年以上の歴史を持つ「週刊朝日」の休刊は、雑誌の厳しさを象徴する出来事だった。資材・輸送費の高騰に伴い、全体的に単価が上昇している。2024年には物流問題が直撃する。書店は、閉店や建て替えによる大型店舗の一時休業が続く。一冊の本・雑誌の届け方が変わり続ける。情報が流れるスピードは速まる一方。出版はその時流に乗りにくい。それでも、時間をかけてまとめ上げられた言葉をじっくりと受け止めていきたい。=朝日新聞2023年12月23日掲載