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「狼の義 新 犬養木堂伝」 戦争に導かれていく過程に臨場感 安田浩一が薦める新刊文庫3点

  1. 『狼(おおかみ)の義 新 犬養木堂伝』 林新・堀川惠子著 角川ソフィア文庫 1760円
  2. 『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』 菅野久美子著 双葉文庫 770円
  3. 『寿町のひとびと』 山田清機著 朝日文庫 1155円

 (1)殺される2週間前のことだ。犬養毅はラジオ放送を通じて国民に訴えた。「私がいう産業立国は、皇国主義じゃない、侵略主義じゃない」。政治への介入を図り、天皇親政を主張する軍部を刺激したのは当然だった。まもなく、犬養は凶弾に倒れることになる。ようやく芽吹いたかと思われた政党政治はテロルによって幕を閉じ、日本の運命は暗転した。「憲政の神様」の生涯を追った骨太のノンフィクション。日本社会が戦争に導かれていく過程が、臨場感をもって描かれる。

 (2)誰にも看取(みと)られることなく、ひっそりと死んでいく人は年間で3万人にものぼるという。著者は自殺や病気などで人が亡くなった部屋の「特殊清掃」を請け負う業者に同行し、壮絶ともいえる孤独死の現場を取材してきた。孤独死の多くは「セルフネグレクト」が原因だとの指摘が興味深い。近所にも福祉にも頼ることなく、人は自身を放任し、死へと向かっていく。他者との関係が希薄になりがちな現代、私たちはどう生き抜いていくべきか。本書にはそのヒントも詰まっている。

 (3)資本主義の心臓部として機能してきた「寄せ場」も、いまはその活気を失った。「日本3大ドヤ街」のひとつに数えられる横浜・寿町も例外ではない。それでも人は生き続ける。多様な営みがある。そこで生まれ育った人、たどり着いた人、支援に入った人。著者はそれぞれの人生を追う。想像を超えた型破りな「物語」の数々が、寿町のリアルを克明に映し出す。=朝日新聞2024年2月17日掲載