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「幻のレコード」書評 近現代史の中で検閲史分析

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2024年02月24日
幻のレコード 検閲と発禁の「昭和」 著者:毛利 眞人 出版社:講談社 ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784065322574
発売⽇: 2023/11/01
サイズ: 19cm/365p

「幻のレコード」 [著]毛利眞人

 レコードの検閲が近現代史の中で、いかなる形を辿(たど)ったかを分析し、示唆に富む表現でまとめている。検閲の仕組みが活字などと異なり、レコードマニアともいうべき検閲官(検閲そのものに当たるのは1人だけ)の趣味のレベルで行われていた節があるという。内務省の内部文書では検閲当局が「推薦レコード」を挙げるのだが、それも例の一つだと説く。
 ジャズの禁止は戦時下でかなり戦況が悪化してからだという。日中戦争の初期には、蔣介石を揶揄(やゆ)するような漫才のレコードは発禁扱いという事実も驚きだ。
 明治44(1911)年、ドイツのレコード会社と契約した浪曲師の浪曲は、二重契約で訴訟沙汰になる。日本レコード業界にとって大きな教訓となった。
 やがて歌謡、落語、政治演説など実に多様化する。検閲基準が法的に整備されたのは昭和9(1934)年だという。戦後、検閲する主体は「官から民」に変わったとの見方も提示されている。