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九段理江さん「最近は生成AIの専門家としてひっぱりだこ」 第170回芥川賞・直木賞贈呈式

(左から)河﨑秋子さん、九段理江さん、万城目学さん

 第170回芥川賞・直木賞の贈呈式が22日、東京都内で開かれ、受賞者3人が喜びを語った。

 「東京都同情塔」(新潮社)で芥川賞を受賞した九段理江さんは冒頭、1カ月前にあった選考会後の記者会見での発言について言及した。受賞作について、実際にAIの文章を参考にした箇所はわずかだったが、「全体の5%ぐらいは生成AIの文章を使っている」と言ったことが大きな話題を呼んだ。「私の発言が世間をお騒がせし、家族や親しい友人にも心労をかけてしまいました」。その上で、「最近は小説家というより生成AIの専門家として各メディアにひっぱりだこだった」とユーモアを交えて話した。「専門家」として、人間とAIの違いを聞かれることが多かったといい、その答えも披露した。「人間には、データが即座に切り捨ててしまうエラーや偶然を楽しめる、余裕と遊びがある。偶然の出会いによって生まれる創造性こそが人間とAIの違いです」

 「ともぐい」(新潮社)で直木賞を受賞した河﨑秋子さんは、5年ほど前まで羊飼いをしており、動物たちの生き死にが間近にあった。「死んでいった生きものが、言葉に残されないままどんどん埋もれていく。それを残してやりたいという思いが積み重なって私は筆をとった気がする」と語った。「これからも、生きものの命を書いていきたいという志だけは変わらないだろうなと思う」

 「八月の御所グラウンド」(文芸春秋)で直木賞を受賞した万城目学さんは、6度目の候補入りだった。「ほんとうに受賞したのか、いまも半信半疑。先ほど正賞の懐中時計をもらったけど、自分のだけ中身はキッチンタイマーなのではないか」とおどけた。受賞作を刊行した昨夏、編集者と訪ねた居酒屋の店員に「うちの大将は超直木賞ファン。受賞作をよく当てる」と言われた。後日、思い出して店のインスタグラムを見ると「大将の予想は『ともぐい』と、別の候補作品でした」と明かし、会場は笑いに包まれた。(田中瞳子)=朝日新聞2024年2月28日掲載