ナポレオンのように、軍人としてのカリスマで皇帝となり国の指導者となる場合は国民の支持を得やすいが、軍事的武勇伝なきリーダーは統治が難しい。そこが、習近平が毛沢東、トウ小平とは異なる点だと本書に教えられる。権力基盤への不安はもとより、長い国境線を維持し、少数民族の離反という「遠心力」を阻止する必要に迫られる。そのため対外的には強引とも見える領土拡張に向かい、対内的には言論統制、少数民族圧迫に向かう。
本書は現在の中国の領土拡張本能の本質を浮かび上がらせるなど、世界の見方を丁寧に順を追って読み解いてくれる。
私自身、早稲田大学の教授としてどの学部の学生にもわかりやすく一般教養科目で世界の資源エネルギー情勢を伝えようとしてきた。本書が説く地政学の基本の一つは資源エネルギーである。世界は不平等で、石油・天然ガスの生産国は地球上のほんの一部の国である。また、資源輸送の経路の上で大きな紛争が起こる。陸路ではロシアからドイツへの天然ガスパイプラインがウクライナを通過する。中東の石油資源はホルムズやマラッカを経由する。最近はここに地球温暖化対策が大きな変数として加わる。
ロシアからの天然ガスを主力に地球温暖化対策と経済成長を進めたドイツは、ロシアのウクライナ侵攻により大きな混乱に陥った。その中で世界の国々は、国家の独立を維持しつつ地球温暖化対策と経済成長に腐心する。各国が戦略を立て自国を守っていかなくてはならない。
本書は中学生にも読んでほしいためにこのタイトルにし、手に取りやすい装丁にした。地球儀を見ながら、「カイゾク」と呼ばれる老人が、登場人物の中高生兄妹に対して物語的に説明していく手法は秀逸である。
本書からは国際的な視野や国家の独立、平和に関心を持つきっかけが得られる。文字通り13歳から社会人まですべての人に読んでもらいたい一冊である。=朝日新聞2024年3月23日掲載
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東洋経済新報社・1650円。16刷・22万部。22年刊。「タイトル通り中高生から、ウクライナ侵攻をきっかけに地政学に興味を持った大人まで幅広い世代に読まれている」と担当者。