1. HOME
  2. インタビュー
  3. 新作映画、もっと楽しむ
  4. 映画「不死身ラヴァーズ」松居大悟監督・佐藤寛太さん・青木柚さん 構想10年以上「あのピュアな気持ちを再び」

映画「不死身ラヴァーズ」松居大悟監督・佐藤寛太さん・青木柚さん 構想10年以上「あのピュアな気持ちを再び」

(左から)青木柚さん、松居大悟監督、佐藤寛太さん=有村蓮撮影

原作から男女を入れ替え

――構想に10年以上かかったそうですね。映画化を諦めることができなかった理由をまず教えてください。

松居大悟(以下、松居):りのとじゅんを演じる人のイメージが湧かなかったことが理由ですね。

――原作と映画では男女が逆の設定になっていますが、この発想はいつ思いついたのですか。

松居:もともと原作通りに、男の子が女の子を追いかける話にしようと思っていました。でも、じゅんのイメージが全く湧かなかった。好き好き言っているけど、それが嫌な感じがしないじゅん……格好いい男の子が好き好き言っている姿は入り込めないし、素朴な男の子が一生懸命言うとしても、誰だか思いつかないし……。

 そうなって、先にりののオーディションをしたんです。そこで見上愛さんが来てくれて、すごく良かったんですよね。彼女はくるくると表情が変わって、『不死身ラヴァーズ』の原作を読んだときに感じた「先が読めない」「この人を見つめたい」という感覚を思い起こさせてくれた。

 そして見上さん側、つまり、りのが追いかける話だったら、じゅんの選択肢は結構広がると思いつきました。原作者や制作委員会、見上さんサイドにも許可をとって、男女を入れ替えたんです。

(C)2024「不死身ラヴァーズ」製作委員会 (C)高木ユーナ/講談社

――松居監督が原作漫画に出会ったのはいつですか。そして何が一番の魅力でしたか。

松居:「別冊少年マガジン」の連載中から読んでいました。なので2013年ぐらいに出会っているのかな。ちょうど僕は2012年に「アフロ田中」で長編映画デビューして、その次に「男子高校生の日常」(2013年)で男たちの群像ものを描いていて、今後、自分がどういう作品をやりたいか考えていた中で、出会ったんです。

 僕、音楽とか芸術とかでも他の表現でもそうなんですけど、「この人にしかできない表現」や「この媒体にしかできない表現」に強く惹かれるんですよね。原作の『不死身ラヴァーズ』も、例えば心臓や細胞が主語になっていたり、そのまま心臓の画が描かれていたり、漫画でしかできない表現や高木先生から生まれた言葉がたくさんあって、生き生きとしているなと思ったんです。ラブストーリーなのか、サスペンスなのか、どのジャンルにも括れない感じもまた面白いなと思いましたね。

――企画を投げ出すこともできたと思いますが、なぜそれができなかったのでしょう。

松居:分からないです。僕は企画がボツになったら、パソコンの中の「墓場」という名前のフォルダに、台本を「埋葬」するんですけど、この『不死身ラヴァーズ』に関してはどうしてもできなくて……。

 高木先生にも会って先生の思いを聞いていたし、最初の制作チームの思いも分かっていたし、自分にとっての初期衝動を絶対否定したくないと思っていたんです。映画制作を続けていくと、飛距離の伸ばし方が分かってくるんですね。こういうキャスティングにするといいとか、こういう風にしたら物語が届けやすいとか。でもそういうことを抜きにして「どうしてもやりたい!」と理屈なく思った感覚を「埋葬」できなかったんです。

 そして、ずっと温めていたんですけど、3年前にメ〜テレさんが「やってみましょう」と言ってくれたので、また動き出すことになったわけです。

映画も原作も「とてつもないパワー」

――甲野じゅん役の佐藤さんと田中役の青木柚さん。それぞれ演じてみてどうでしたか?

佐藤寛太(以下、佐藤):僕が演じる甲野じゅんは、さまざまな甲野じゅんとして存在するので、じゅんでありながらも違う役を何役も演じることになります。それに僕は松居監督の作品をずっと見てきて、憧れの人だったので、監督の作品に出るというプレッシャーもあって、撮影前はとても緊張していました。

 でもいざ現場に入ってみると、監督は、僕が技術を使っていろいろな役を演じ分けるというよりも、僕は僕自身としていてその側面が役によって少し違って見えるというニュアンスに持っていきたかったようで、僕が装備していたものを剥がしていってくれたんですよね。結局、この作品では、見上さんがずっと台風の目。目の前の彼女を見て、自分が何かを感じることができるかというシンプルな表現でよかったんだと思います。

青木柚(以下、青木):映画だと、りのが無我夢中に「好き」という感情で突き進んでいるわけですが、そんなエネルギーを持った人と幼少期からずっと一緒にいる田中はどんな人物なのだろう。なぜ一緒にいられるのだろう。描かれていないことが多い分、べったりでも、離れているわけでもない距離感や温度感は意識しました。

 本編でも、田中自体が、恋愛を超越している、といったニュアンスが描かれていますが、映画を見る方によっていろいろな捉え方があるかもしれません。田中を演じる上では、恋愛という柱を真ん中に置かず、ニュートラルでフラットな立ち位置でいることは意識しましたね。

――監督から見たお二人は?

松居:りのの親友の田中を女性にすると、ガールズトークになってしまって、最後まで引っ張れないと思い、「恋愛ではない、腐れ縁の幼なじみの男の子」という設定にしました。りのと恋愛の匂いがしない配役と思ったときに、(青木)柚しかいないと思いました。気心の知れた仲ですし、肩の力が抜けている感じが適役だなと。佐藤寛太は初めましてですが、サイコロで決めました(笑)

佐藤:神に感謝です(笑)

松居:変な言い方かもしれませんけど、佐藤寛太のように落ち着きがない役者さんって、あまりいないんですよ。多くの場合損をするから。でも今回の「不死身ラヴァーズ」において、そのままの佐藤寛太らしさがこぼれ出ると、じゅんという役が愛おしく見えるなと思ったんですよね。そういう意味で、佐藤寛太以外は考えられませんでしたね。それに僕と同郷ですし!

佐藤:同郷で良かったです(笑)

――佐藤さんは松居監督のファンだったのですね。

佐藤:はい。「男子高校生の日常」(2013年)などが特にそうですが、松居監督は自分ですら認めたくないようなダサいところを映画に出してくるじゃないですか。それがすごく生々しくて、でも最後に救いがあったり、明るくコメディーになったりしているところが好きなんです。

――佐藤さんと青木さんが思う原作の魅力を教えてください。

佐藤:原作も映画も同じだと思うんですけど、とてつもないパワーがあるんですよね。物語が進んでいくうちに、自分も元気がチャージされて、「俺も走って人に会いにいきたい!」と思ってしまう。ちょっと惨めなところも含めて、みんなが一生懸命で、人間っぽいところが好きです。

青木:確かに原作も今回の映画も、エネルギーをとても感じます。

 自分が幼稚園生や小学生だった頃に、「好きなものを好き」と、おままごとをしたり、放課後に外で遊んだりする気持ち。もしかしたら今の自分の中には、あの純粋な気持ちはもう無くなっているのかもと思うと不安になったりもするんですけど、そのピュアな気持ちを原作からも映画からも感じました。「そういう時期があったな」なんて思い返して、ノスタルジックになったり、自分の心の余白を掴まれているなと不思議な気持ちになったり。

 まるで原っぱで遊んでいるような愛おしさと、成長したからこそ感じる懐かしさや切なさが押し寄せて、僕はとても好きだなと思いました。

ラブストーリー? サスペンス?青春?

――ところでみなさんはふだん、どんな本を読むのですか?

佐藤:最近、めっちゃ読むんですよ。撮影のときは仕事の時間が変則的なので予定が立てづらいのですが、稽古のときはだいたい時間が決まっているので予定が立てやすいんですね。もちろん台本も読むんですけど、今は特に小説やエッセイを中心に読んでいます。

 具体的には西加奈子さんの『うつくしい人』と、加藤陽子さんの『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』を持ち歩いていて、気分で読みたい方を読み進めています。あ、今年の直木賞と芥川賞作品も面白かったですね。

青木:僕は本を読むときと読まないときの差が激しくて。現場のときは、脚本以外の物語に入り込めないので、小説は読めないですね。なのでエッセイとか詩集を少しずつ読んでいます。最近読んでいるのは、星野道夫さんの『旅をする木』。

佐藤:え! 本当に? 星野さんの写真集を持っているから、今度見せてあげるよ!

青木:持っているの? ぜひ見せて! あとは、無印良品の文庫本があるのをご存知ですか?500円(税別)の薄い本なんですけど、茨木のり子さんや小津安二郎さんらいろいろな文化人ごとにまとまっているんです。いろいろな文化人の方がフィーチャーされてて。過去の作品からの抜粋や、その人が使っていた道具なんかも載っていて。さくっと読めるし、面白いですよ。

松居:仕事につながることもあるし、「これを読んでください」と言われることもあるから、僕も本は読むほうです。ジャンルとしては小説も漫画も、ルポルタージュなども読みます。最近だと芸術新潮の2月号の特集「会田誠が考える新しい美術の教科書」が面白かったですね。

 月単位でいうと5冊前後ですかね。僕は基本的に1年のうちの稽古と撮影は3カ月ぐらいで、残りは準備か仕上げなので、主に準備や仕上げ期間に読んでいます。

――みなさんが読書好きであることがよく分かりました。どんな人にこの映画版「不死身ラヴァーズ」を届けたいですか。

佐藤:難しい質問ですね……柚さんも先ほど言っていましたが、「これが好き」ということに別に理由はなくて。学校からダッシュで家に帰って、ランドセルを置いたらすぐに公園に行って、野球をして遊んだあの頃確かに感じていた、「この人に会いたいから走る」とか「会う前からワクワクする」とか「好きでいることのパワー」とか、とにかくエネルギーが詰まっている作品です。

 映画って、体験型のアトラクションみたいにその場でしか得られないものがあると思うので、少しでも気になった人には見に来てほしいですね。映画館の前を通る人はみんな見に来てほしい!

青木:「好き」を強く伝える主人公が出てくる話なので、人でも物でも何かがすごく好きだという気持ちの中にいる人はもちろん楽しめると思います。ただ、別に「恋をしようよ」という話でもないと思っていて。田中もそうですけど、恋愛に重きを置いていない、いろいろな形の好きがあってもいいよねという自由さというか。間口が広いフレンドリーな映画だと思います。気軽に見に来ていただけたら嬉しいです。

松居:「不死身ラヴァーズ」は、ラブストーリーと捉えることもできるけど、サスペンスとも捉えられるし、青春とも捉えられるし、ジャンルにとらわれない作品だと思うんです。「好き」とはなんだろうということも含めて、何かを決めつけずに見てほしい。りのとじゅんと田中と一緒に感じていけるような映画だと思うので、本を読むような感覚で映画を楽しんでください。