一年前にパソコンを買い替えてからメールソフトに不具合が発生し、過去メールの検索ができなくなった。さかのぼればメール自体はあるからどうにか使えているものの、とても不便で困っていたのだが、家で一人で作業する職業柄、人に尋ねることも難しく、ずっと難儀していた。
先日、パソコン作業が得意な若い友人に家に来てもらい、修復を試みた。数か月前にも対応策を教えてもらったのだが、どれも功を奏しないままだった。実際の画面を見てもらってもどうにもならず、ソフトウェア会社のサポートセンターに尋ねることに。しかし、電話のサポートセンターは閉鎖したと書いてあり、AIの自動応答に誘導される。
文字で入力してみるが、あまりない症状のようで、いくつか質問に答えるとはじめに戻ってしまう。次に音声応答のAIも試してみたが(すべて若い友人がやってくれている)、さらに伝わらずにはじめの質問に戻る無限ループで途方に暮れた。
検索で表示される他のサポートサービスは専門の会社に毎月料金を払うもので、けっこう高い。ぐったりしつつあれこれ(友人が)検索しつづけてようやく、ソフトウェアのものすごくわかりにくい場所に問い合わせ窓口があることがわかった。
しばらく待って、人間の声が聞こえたときには心底ほっとした。とても親切な女性のオペレーターさんで、症状を伝える。やはりかなり珍しい不具合だったようで、画面共有で操作してもらったのだが、途中で「えっ、なんでここにデータがないの?」と驚いた声を上げられたのも、ああ、人間らしくて素晴らしい!と感動した。操作と解説から、その方がシステムについて深く理解していることが伝わり、プロフェッショナルな仕事ぶりに感謝しかなかった。
無事にメールの検索ができるようになり、若い友人とお礼の言葉を繰り返しつつ、その前のAIとのディストピア感漂うやりとりとの差に、人間がいてくれてよかったと心から思った。=朝日新聞2024年5月1日掲載