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常識を問い直し、新たな視点「結婚の社会学」 高谷幸の新書速報

  1. 『結婚の社会学』 阪井裕一郎著 ちくま新書 1100円
  2. 『今を生きる思想 ジョン・ロールズ 誰もが「生きづらくない社会」へ』 玉手慎太郎著 講談社現代新書 880円

 現代の日本で結婚とは、男女の性愛関係にもとづくことが「常識」とされている。(1)は、近代以降の結婚の変化を概観すると同時に、ステップファミリー、事実婚や夫婦別姓、同性婚など現代における結婚のあり方を多角的に考えることで、この「常識」を問いに付す。そこから浮き彫りになるのは、人びとの結婚や親密な関係性をめぐる意識や行動は変化しているにもかかわらず、変わらない制度と「常識」である。これに対し、著者は、既存の結婚制度には収まらない、たとえば、友人関係やケア関係など人びとの生を支える他の関係性へと制度的保障を広げる可能性を提起する。それは、人びとの多様化したニーズにかなう社会の構想でもある。

 では、多様なニーズや価値観をもつ人びとが共に生きる状況において、誰もが自尊心を守られ、「生きづらくない」、公正な社会の仕組みとはどのようなものか。このすぐれて現代的な問いを提起し、今日に至るまで政治哲学に大きな影響を与えてきたのが、20世紀後半のアメリカで活躍したジョン・ロールズである。(2)は、ロールズの主著『正義論』のエッセンスを、無知のヴェール、原初状態、正義の二原理といった重要な概念とあわせてわかりやすく解説する。

 わたしたちは、自らにとって大切な関係性や価値を追求するため、もっと自由に制度を構想していいし、それができるはずである。両書から受け取るメッセージは、この社会の未来に向けられている。=朝日新聞2024年5月25日掲載