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内田かずひろさん「ロダンのココロ国語辞典」インタビュー あの哲学マンガが再び

内田かずひろさん

 犬の視点で人間を見詰める。そんな哲学マンガが帰ってきた。主人公はラブラドルレトリバーのロダン。額にしわを寄せた愛くるしい顔を見れば、朝日新聞での連載を思い出す方も多いはず。1996年の連載開始から28年が過ぎ、作者の内田さんも還暦間近に。マンガや絵本の仕事が激減し、2021年には一時ホームレス状態になった。

 「取材はホームレスのことばかりで、『マンガ家』じゃなくて『ホームレスになったマンガ家』の内田さんと、まるで新たな肩書のようだった。マンガの仕事がほんとに無くて、とりあえず自分で何か描こうとツイッター(現X:@rodacoco)でロダンを始めたんです」

 原稿を催促する編集者はいない。一人で続けていくために題名を「あいうえお」順にし、初回は「あ(ありがとう)」について考えるロダンを4コママンガでアップした。

 ホームレスになった後、大和書房からエッセー執筆の依頼があったが、形にできずにいた。マンガと同じ題名でエッセーを書くことを思いつき、50音順に両方を並べる新著の形が固まった。

 いまも月に20日ほど、終日のアルバイトをしている。「平日夜は疲れて気持ちも切り替わらないので、朝5時ごろに起きて描いています」

 マンガやエッセーから、生きづらさを抱えて生きてきた経験がにじむ。「か(かえる)」のマンガでは、ロダンは散歩で最も聞きたくない言葉だと思いながらも、帰る場所があるのはきっと幸せなことなのだと思い直す。「な(ない)」のエッセーでは、どうにもならないほどお金がない時、心臓の鼓動が遅く、呼吸が苦しくなったと振り返り、「孤独の寂しさが積もり積もって、人の心を蝕(むしば)み死に追いやってしまう場合もあるのではないか」と記す。
 新聞での連載開始時、担当者から「ロダンは家の中で唯一の賢者で大人なんです。ロダンのココロには発見がないとだめなんです」とくり返し言われた。担当者は鬼籍に入ったが、今もその言葉を心にとめて、人々の何げない日常をロダンの目で観察している。(文・西田健作 写真・大野洋介)=朝日新聞2024年5月25日掲載