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昨日のことのように 柴崎友香

 連休に高校の同窓会が大阪であった。同窓会は八年ぶりだったが、高校の同級生たちは、何年経っても昨日教室で会っていたみたいに話せる。高校時代は一度も話したことがなかった人でもそうで、東京に移ってから会うようになった東京在住の同級生たちはむしろ高校時代には名前さえ知らなかった人も多い(なにしろ一学年六百人近くいた)。ここ数年ほとんど大阪に帰っていなかったせいもあり、なんの垣根もなく話せる人たちに囲まれていると、やっぱり自分にはここが「家」みたいな場所だとしみじみほっとした。

 今回おもしろかったのは、友人の子供たちが大人になっていることだった。前は小中学生の子供がいる人が多かったが、今はだいたい二十歳前後になっている。今年の春から高校の先生になって、と聞いて驚いたりした。目の前でそう話す友人は、私には高校のときと変わらないように見えている。他人から見れば五十歳の集まりだろうし、私も含めて皆それなりに年を取っているのだが、それでも当時の面影で友人たちを見ている。声もしゃべり方も変わらない感じがする。それなのに、その子供たちが、私たちが同じ教室にいた年齢を追い越しているとは!

 ともかく、子供だったり仕事だったり新しい趣味だったり(私と同じくらい小柄な女友達はバイクの免許を取って山にツーリングに行くそうだ)、みんなにその後の長い時間が流れていることが、不思議でありつつ、それを知ることは私にはとても幸せなことだった。

 先月からスマホのアプリで英会話学習をしている。夜になると「今日はまだですよ」と知らせてくる。え、さっきやったやん、と思うが、一日経ったらしい。家で仕事をして区切りがないから余計に昨日も今日もわからなくなるのかもしれないが、時間が経つのがどんどん速くなっている。速すぎると思いつつ、振り返るとけっこう長い。次に同級生たちに会うときには、どんな時間になっているだろうか。=朝日新聞2024年5月29日掲載