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本村凌二さん「神々のささやく世界 オリエントの文明」インタビュー 4千年の通史を一人で

本村凌二さん

 メソポタミア文明からローマ帝国の滅亡まで、4千年の古代史を一人で叙述する、全8巻のシリーズ「地中海世界の歴史」。その最初の2巻を世に送り出した。

 第1巻の『神々のささやく世界 オリエントの文明』では、文字などを生み出し、すべての文明の起源とも言われるシュメールの叙述から始まり、古代エジプトの勃興をへて、フェニキア人が登場するまでが描かれる。

 「東京大学で1~2年生にずっと教えてきたこともあり、ずっと地中海を中心とした文明の通史が書けないかと思ってきた。二十数年来の夢が実現しました」

 長大なシリーズを、専門の研究者で手分けするのではなく、一人で書こうと思ったのは「みんなでやると結局、寄せ集めになってしまうので。一つの視点で歴史を語るやり方があっていい」と考えたからだ。膨大な作業量となったが、すでに「6巻までの原稿は書き上げた」という。

 熊本県生まれの東京都国立市育ち。ジャーナリストになろうと一橋大学の社会学部に進学するが、大学新聞に記事を書く過程で、古代資本主義とローマ史に興味を持ち、東京大学大学院に進んだ。おしゃれなサングラスは、学生時代からのトレードマークだ。

 嬰児(えいじ)の遺棄に関する多くの資料を読み解き、ローマの人々の生命観や自然観に踏み込んだ『薄闇のローマ世界』で1994年にサントリー学芸賞を受賞。多くの文献を渉猟し、時に感想を交えつつ、歴史を語る詩的な文体は定評がある。

 本書でも、シュメール王のギルガメシュらが神々の声を聞いていたと説くくだりは、心にしみいった。

 「古代の人々は私たちよりもはるかに神を身近に感じていたと思う。だからこそ、神の声が聞こえ、それが記録にも残された。しかし、紀元前1千年紀になると、なぜか神の声が届かなくなる。その沈黙が、一神教を生み出してゆくのだと思います」(文・宮代栄一 写真・大野洋介)=朝日新聞2024年6月1日掲載