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「ねえ、おぼえてる」ほか子どもにオススメの3冊 思い出の断片、五感を刺激

「ねえ、おぼえてる?」

 母と子がベッドで寄り添い、会話します。最初はママが「ねえ、おぼえてる…?」。パパと3人で野原へピクニックに行った日のこと。暗闇を見つめながら光の記憶をなぞり、次はぼくの番。「ねえ、おぼえてる…?」

 かわるがわるたずねます。ぼくの誕生日、パパがくれた自転車に乗り、ママが支えた手を放した後のこと。嵐の夜、停電になって呼ばれても、ママはすぐに行けなかったこと。

 思い出は映画のカットのように小さな断片で描かれ、言葉とともに読者の五感を刺激します。野いちごの甘さ、干し草のにおい、笑い声、雷の音……。やがて、ふたりがパパと別れ、長いドライブを経て、ここにたどり着いたのだとわかります。

 先月国際アンデルセン賞画家賞を受賞したカナダの絵本作家の新作。少年のころに深く刻まれた体験を歳月かけて絵本に昇華しました。過去が今とつながり、今が思い出になる日を思う夜明け。柔らかな朝日に包まれるまでの展開に胸揺さぶられます。絵本の可能性を拓(ひら)き続ける作家。日本語の題字も本人の描き文字です。シドニー・スミス作、原田勝訳、偕成社、1760円、小学校低学年から絵本評論家・作家 広松由希子さん

「再会の日に」

 小学5年生の朝井陽架(はるか)は、母と2人で暮らしている。妹の未怜(みれい)は3年半前に別れたまま父の家にいた。ある時、同級生の話から妹が駅前の進学塾に通っていることを知り、母には内緒で会いに行こうと思い立つ。妹が父の家に連れていかれたのは、自分が助けられなかったのが原因だと思っていたので、あやまりたかったのだ。

 陽架は未怜にその思いをうまく伝えることができるのか。姉と妹それぞれにお互いを思いやる優しい気持ちと家族の再生が見事に描かれている。(中山聖子著、岩崎書店、1650円、小学校高学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん

「スナックこども」

 ゆのんは全然眠れません。だって、今日は嫌なことがあったから。こんなときは、あそこに行くしかない。布団をはねのけ身支度をし、ベッドの下にもぐりこんでむかった先は「スナックこども」。こどもしか知らない、こどもしか入れないお店です。

 お酒こそありませんが、好きなだけお菓子を食べたり、カラオケで歌ったり、ぐちを聞いてもらったり、まるでおとなのスナックです。ストレス発散できて楽しそう。おとなもこどもも、ガス抜きは必要ですよね。スッキリしたら、明日からまた頑張れそう。(令丈ヒロ子作、まつながもえ絵、理論社、1540円、小学校低学年から)【丸善丸の内本店 兼森理恵さん】=朝日新聞2024年5月25日掲載