1. HOME
  2. 書評
  3. 「マチズモの人類史」書評 他者を尊重する「公平」さを提唱

「マチズモの人類史」書評 他者を尊重する「公平」さを提唱

評者: 前田健太郎 / 朝⽇新聞掲載:2024年06月08日
マチズモの人類史――家父長制から「新しい男性性」へ 著者:イヴァン・ジャブロンカ 出版社:明石書店 ジャンル:社会・政治

ISBN: 9784750357102
発売⽇: 2024/04/01
サイズ: 19.6×3.4cm/448p

「マチズモの人類史」 [著]イヴァン・ジャブロンカ

 これまで、男女平等の推進は女性の社会進出として語られてきた。しかし、男性にも重要な役割がある。それは、自らの特権を見直し、他の男性の変化を促すことだ。本書では、フランスの歴史家が世界的な視野で男性像の長期的な変遷を辿(たど)り、新たな展望を描く。
 本書によれば、これまでの人間社会における「男らしさ」とは他人を支配すること、すなわち「支配する男性性」だった。一人前の男性とは、女性を服従させる男性であり、それができない男性は軽蔑された。このモデルを体現したのが父親による家庭の支配であり、それを支える文化的なシステムとしての家父長制だった。だが近代以降、家父長制がフェミニズムの挑戦に直面し、産業構造の変化で男性の地位が揺らぐと、多くの男性はこの理想に手が届かなくなる。男性が振るう暴力も、自殺率の高さも、その不安を反映していると著者は見る。
 この歴史を踏まえて、本書は女性を支配するのではなく、性的同意を尊重し、積極的に男女平等を求める「公平な男性」の理念を提唱する。その主張は至って穏当だ。支配者になれる男性は一握りだが、他者を尊重することは誰にでもできる。本書は、男性を糾弾する立場からも、男性支配の復活を志す立場からも距離を取り、男性も女性のように家事や育児を担うことを説く。
 本書は数年前にフランスで刊行された際に大きな反響を呼んだという。フランスといえば政党に候補者の男女同数を義務づけるなど男女平等の国だと思われがちだが、その国が未(いま)だに「支配する男性性」を脱却できていないという本書の認識は興味深い。日本の事例も頻繁に登場するものの、遅れた国として見下す態度はなく、欧米諸国と同列に扱われている。だからこそ、本書は日本の読者に多くの示唆を与えるだろう。新たな男性像の探求は、日本でも率先して取り組むべき普遍的な課題なのだ。
    ◇
Ivan Jablonka フランスの歴史学者。仏革命後の孤児の実態解明などに取り組む。『私にはいなかった祖父母の歴史』など。