東京都内の書店でレジの列に並んだら、前の女性が自身の著書を手にしているのが見え、迷うこと無く声を掛けた。
「ありがとうございます、著者です」。声をかけられた女性は「プチパニックになってらっしゃいました」。
大正天皇のひ孫であり、女性皇族として初めて英・オックスフォード大で博士号を取得した。その「肩書」だけでは想像できない気さくな人柄がにじむ本書が今、ヒットしている。17日には累計発行部数が16万部に達するという。
郊外の空港で皇族用の外交旅券を出したら「本当にプリンセスなの?」と疑われる一方で、エリザベス女王とバッキンガム宮殿でお茶を共にしたことも。
「現代版ローマの休日」とも言うべきプリンセスの日常にほっこりさせられる一方で、「今の自分の基盤を築いた」という留学生活は山有り谷有り。英語が聞き取れず孤立し、新入生が集うバーに入れず自室で涙したこと、明けても暮れても続く博士論文執筆により「ストレス性胃炎」にかかったこと。初めての宮内庁への「猛抗議」まで赤裸々に書き込んだ。
「上げ膳据え膳で、ただ楽しい留学生活だったんだろうと思っていらっしゃる方もいたかもしれないので、ありのまま書き留めることで知っていただきたかった」と振り返る。
執筆は、同じく同大に留学し、留学記を出版した父、寛仁さま(2012年に逝去)との約束だった。「皇族として国民の皆さまに留学の成果を報告する義務がある」と考えていたからだ。執筆時には「硬すぎる」「仲の良い人は基本的に実名を出せ」など細やかな助言をもらった。「より臨場感をもって伝えられる文章になった」と感謝する。
単行本として出版したのは2015年。8年後の昨年5月、X(旧ツイッター)で「プリンセスの日常が面白すぎる」と話題になり、今年4月に文庫本が出版された。「8年経っても見つけてもらえるものを書き残せたことがよかった」とほほえむ。
「この本で、いつか誰かにこんな経験をした皇族がいたんだ、と知ってもらえれば」(文・中田絢子 写真・上田幸一)=朝日新聞2024年6月15日掲載