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暁斎の娘を通し美しく狂おしい芸の道を描く「星落ちて、なお」 谷津矢車が薦める文庫この新刊!

  1. 『星落ちて、なお』 澤田瞳子著 文春文庫 891円
  2. 『黒牢城(こくろうじょう)』 米澤穂信著 角川文庫 1056円
  3. 『身もこがれつつ 小倉山の百人一首』 周防柳著 中公文庫 1100円

 今回は「文学賞を受賞した歴史小説」で選書。

 幕末から明治にかけて活躍した絵師・河鍋暁斎の娘暁翠(とよ)を主人公にした(1)は、クリエイティブと人生のあわいに立つ一人の女性の葛藤を主題とする絵師小説。父暁斎、異母兄の暁雲(周三郎)への愛憎を抱え、画道に強い疑問を持ちつつも離れられずにいるとよの姿から、美しく狂おしい芸の道を描き出してゆく。ラスト、尊敬と愛、赦(ゆる)しと決別がない交ぜになったとよの重大な決断は、力強く伸びやかな救いを読者にもたらす。直木賞受賞。

 時は戦国、織田信長に反旗を翻し、有岡城に籠城(ろうじょう)する荒木村重の足元で起こる不可解な事件の数々を描く(2)は、村重が、獄中の小寺(黒田)官兵衛の示すヒントを元に、時に側室の千代保の支えを得つつ事件を解決してゆく時代ミステリ。しかし、ラストに用意されている大仕掛けによって、本作の物語世界、事件が、我々の知る歴史を絵解きするためのパーツに変貌(へんぼう)。ミステリ構造を用いて歴史の空白を埋めた小説とも位置づけできよう。山田風太郎賞、直木賞、本格ミステリ大賞の三冠。

 新古今調、ひいては日本文化の核を形作った文化史上の巨人、藤原定家を主人公にした(3)は、後鳥羽院、藤原家隆との秘められた関係を丁寧に解きほぐしつつ、新古今調の核である幽玄の美を突き詰めていった定家の姿を活写する。と共に、武士の世になりつつある当時の世相を遠景に、百人一首にまつわる謎を小説的想像力で絵解きし、定家の抱える複雑な屈託をも浮き彫りに。中山義秀文学賞受賞。=朝日新聞2024年6月29日掲載