- 『螺旋(らせん)墜落』 キャメロン・ウォード著 吉野弘人訳 文春文庫 1265円
- 『8番出口』 川村元気著 水鈴社 977円
- 『反転領域』 アレステア・レナルズ著 中原尚哉訳 創元SF文庫 1650円
主人公が同じ時間を何度も繰り返す「ループもの」の面白さは、逃れられない運命の表現にある。
(1)は搭乗したロンドン発ロサンゼルス行きの旅客機が午前零時に墜落、というループに巻き込まれた主人公の物語。ループが発生するたびに墜落までの残り時間は少なくなっていき、減少幅からループは間もなく終わりを迎えることは明らか。最初は戸惑うだけだった主人公が、ループを重ねるたびにタフになり、墜落を回避すべく躍動する。冒頭からラスト一ページまで緊迫感と意外性が連鎖する、最高のスリラーだ。
(2)は大ヒットしたゲーム「8番出口」が原作。無限ループする駅の地下通路に閉じ込められてしまったプレイヤーを操作し、通路内の「異変」の有無に八回連続で気づくことができればクリア――というゲームシステムから、まさか現代社会を生きるひとりの平凡な男の物語が見出(みいだ)されることになろうとは。ゲームの軸であった間違い探しやホラーの要素は薄まっているものの、主人公が巻き込まれたこの状況はいったい何なのか、という観点から哲学を掘り進めたアプローチが大正解だ。
あらすじでは伏せられているが、(3)も「ループもの」だ。時は一九世紀、小型帆船デメテル号のクルーはノルウェー沿岸で未知なる大建築物を発見するも、船が難破して……。なぜループは発生するのか、についてのSF的解釈が白眉(はくび)。運命は逃れられないものだとしても、その運命を絶望から希望に書き換えることはできるのだ。=朝日新聞2025年8月2日掲載