1. HOME
  2. 書評
  3. 「teamLab」書評 体験型芸術の深層に根源的問い

「teamLab」書評 体験型芸術の深層に根源的問い

評者: 望月京 / 朝⽇新聞掲載:2024年07月06日
チームラボ 無限の連続の中の存在 著者:姫路市立美術館 出版社:金木犀舎 ジャンル:アート・建築・デザイン

ISBN: 9784909095558
発売⽇: 2024/04/19
サイズ: 1.7×21cm/184p

「teamLab」 [企画]姫路市立美術館

 暗闇に広がるカラフルで幻想的なデジタルアート空間に、人が入り、触れることでその図柄が変化してゆく……。チームラボの名前や作品を知らなくても、そんな映像は目にしたことがあるかもしれない。昨年「オールひめじ・アーツ&ライフ・プロジェクト」の一環で開催された彼らの二つの展覧会(於・姫路市立美術館、書寫山圓教寺〈しょしゃざんえんぎょうじ〉)に関連して刊行された本書の巻頭作品画像ページを繰れば、実際の鑑賞体験の有無を問わずその多様な作品世界に惹(ひ)きこまれてしまうのではないか。
 チームラボは、芸術家、技術者、数学者、建築家などさまざまな分野の専門家が結集した「芸術創造集団」。彼らの叡智(えいち)と各種テクノロジーの粋により実現された作品の数々は、管理も含め、個人では到底成し遂げ得ない規模だ。
 特性として、鑑賞者がその作品空間に入り込むことで作品が無限に変形してゆく、インタラクティブな体験型アートのエンターテインメント性がしばしば挙げられるが、作者による解説や、本書の骨子たる芸術学、生命科学、宗教哲学など各界を代表する識者たちの論考、対談を読むと、そうした表層の裏には、何人にも関係する根源的な問い、たとえば生と死、自身と外界との関係の認識、あらゆる存在間にはりめぐらされた見えないネットワークが内在していることに気付かされる。世界的受容の所以(ゆえん)だろう。
 それを凝縮した「ボーダレス」「超主観空間」などのチームラボの「キャッチフレーズ」は、言葉上はいまひとつぴんとこないが、それこそ作品に「没入」する鑑賞体験によって無意識に得心されうる核心だろう。それが芸術の力だが、楽しげな体験で看過されかねない神髄を言葉で意識化する本書には、補完や追体験以上に書籍固有の意義がある。作品創作の舞台裏が垣間見えるチームラボ代表の猪子寿之と建築家隈研吾の対談も興味深く、すぐにでも作品体験に出かけたくなる。
    ◇
二つの展覧会「チームラボ 圓教寺 認知上の存在」「チームラボ 無限の連続の中の存在」に関連し刊行された。