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「ベーシックサービス」書評 経済の専門家として疑問に丁寧に説明

評者: 望月京 / 朝⽇新聞掲載:2024年08月24日
ベーシックサービス: 「貯蓄ゼロでも不安ゼロ」の社会 (小学館新書 470) 著者:井手 英策 出版社:小学館 ジャンル:社会・政治

ISBN: 9784098254705
発売⽇: 2024/04/01
サイズ: 10.9×17.3cm/272p

「ベーシックサービス」 [著]井手英策

 教育や医療、福祉など、人が人間らしく生きるのに必要な制度を誰もが無料で利用できたら――。そんな「ベーシックサービス」のしくみは、消費税を16%強に上げれば実現可能だと著者は言う。現在個々に支払うこれらの費用を政府が負担し、支出経路と税金への意識を「取られるもの」から「暮らしの会費」に変えるのだ。
 でも、それって結局増税ですよね? 景気への影響は? 子がなく健康な人には何だか損では?
 想定されるさまざまな疑問に対し、経済の専門家として他国の状況も踏まえ、歴史的、行政的、哲学的見地から平易かつ丁寧に著者は説明する。
 根底には自身の悲劇的体験がある。国民皆が幸せになれる公正な「善い社会」を作るには、まず日本に蔓延(まんえん)する「しょうがない」という受動的姿勢から人々が脱し、社会の理不尽に怒ること。
 著者の熱意から伝わる信念と良心に、皆が必要とするサービスゆえに商機ありと無償化を阻む動きはないのか、それを凌駕(りょうが)するエネルギーの伝播(でんぱ)の方途は?など、思わず自発的考察を促される。