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イラストレーター・宇野亞喜良さん 「おおきなひとみ」共作「時代によって生まれる突発性。同志のよう」

宇野亞喜良さん

 《2013年刊行の絵本「おおきなひとみ」を谷川俊太郎さんと共作した》

 昔から谷川さんに興味がありました。僕から、谷川さんに文章を書いてもらいたいとお願いしたんです。

 「おおきなひとみ」は、先に谷川さんの詩があって、それを見て絵を描きました。まず、「おおきなひとみ」というタイトルから谷川さんの優しさを感じましたね。僕はいつも大きな瞳の少女の絵を描いているから。

 《〈ひとはゆめできぎとまぐわい〉〈あかいちはしろいちちとまじりあい〉……。「おおきなひとみ」は、ひらがなだけの詩のなかで性と生が不穏に見え隠れする》

 この抽象性を絵にしようと思って、植物から豆電球や卵が生えてきたり、少女にカタツムリの触角や殻がついていたりという不条理な感じにしました。

 絵が文章の説明になってしまってはダメです。絵自体のおもしろさや、絵は自由だということを表現できないといけない。

 谷川さんのことはすごく尊敬していて、だからこその恐怖もありました。詩を読んでからもなかなか描き出せなかった。

 谷川さんの中にあるイメージをつかまえようと、意を決して電話をかけて話してみたら気楽なやりとりができた。ほっとして一気に描けました。

 《絵を見た谷川さんは、ためらうことなく詩に手を入れてきた》

 言葉を削り、詩をさらに抽象的にしていったんです。おもしろいものにしていくためには平気で削ってしまえる。

 絵を描くとき、僕は演出家のような気持ちになります。言葉をこういう風に解釈して描いたら自分らしくなるかなと考える。

 僕の解釈は、作者の考えとは異なると思う。おもしろい誤読の仕方をしたいと思っています。谷川さんはそれをおもしろがって、もっとやれと思ってくれていました。

 《数え切れないほどの詩を書きながら「自分の言いたいことはない」と話す谷川さんの姿勢は、宇野さんと共通する》

 僕も、「こういう絵が描きたい」という願望があるわけではありません。与えられた仕事のなかからモチーフを探し出して描いている。

 今日頼まれて今日描くからこういう絵になった、というのも仕事のおもしろさですよね。手がけるメディアによって、作る時代によって生まれる突発性がある。谷川さんも僕も、そこで何かがやってくる瞬間をつかまえようとしている。同志のようにも感じています。(聞き手・田中瞳子)=朝日新聞2024年8月7日掲載

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 うの・あきら 1934年生まれ。ポスターや雑誌のイラスト、絵本、小説の挿絵と幅広く活動。