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音楽家・谷川賢作さん 共演する父は「楽しませたい。ウケたい。芸人に近いスタンス」

谷川賢作さん

 《現代詩を歌うバンド「DiVa」の活動に、父・谷川俊太郎さんを引き込んだのは1996年ごろだった》

 「DiVa」は、ボーカルの高瀬“makoring”麻里子、ベースの大坪寛彦、ピアノの僕で、95年に結成したバンドです。

 当初は思うようにお客さんが集まらなくて、コンサート主催者の友人から「お父さんを連れてきてみたら」と言われたんです。やってみたら歌と朗読を組み合わせるステージが新鮮でおもしろかった。

 それまで僕は、父の詩集を進んで読むことはなかった。子供の頃は、父の職業を聞かれても「詩人」と答えるのが恥ずかしくて。

 でも、30代半ばを過ぎていっしょに活動を始めてから詩を読んでみたら、いい作品がたくさんあるんですよね。

 ステージでは、僕たちの演奏に合わせて不意に詩を読み、時には歌い出す。打ち合わせもしないので、本番で起こるハプニングがおもしろかったですね。

 父の朗読は、音声だけでダイレクトに射抜いてしまう。多いときには全国をまわって年間50本ほどの公演をこなしていました。

 《ステージ上の俊太郎さんは「ウケたい芸人」だという》

 サービス精神が旺盛なんですよね。必ず開演前に「今日のお客さんはどんな年齢層?」と聞きます。子供がいると「どきん」とか「おならうた」を読む。大人もそこで和みます。聞いてほしい。楽しませたい。ウケたい。芸人に近いスタンスなんです。

 父の詩は、歌にしたいと思うことが多いです。言葉のなかに、音楽が内包されているのでしょうね。特に好きな父の詩集は「よしなしうた」です。ひらがなのビジュアルがおもしろくて、ナンセンスで。読んでいたら音楽が湧いてきました。

 父は、この詩集に収録されている「ともだちの とびおり」をよく朗読していました。〈ともだちが ビルの九かいからとびおりた〉から始まる、ドキッとさせる詩です。自分が書いている詩は「生きる」だけじゃないんだ、という観客への挑戦でもあったんじゃないかな。

 父は「僕には詩を書くしかないんだよね」とよく言っています。呼吸するように、これからも詩を書き続けるのでしょう。=おわり
(聞き手・田中瞳子)=朝日新聞2024年8月28日掲載

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 たにかわ・けんさく 1960年、谷川俊太郎さんの長男として東京に生まれる。映画「四十七人の刺客」やNHK「その時歴史が動いた」のテーマ曲を手がけた。