- 『何かの家』 静月遠火(しづきとおか)著 メディアワークス文庫 825円
- 『無垢(むく)なる花たちのためのユートピア』 川野芽生(めぐみ)著 創元文芸文庫 990円
- 『潰(つい)える 最恐の書き下ろしアンソロジー』 阿泉来堂、一穂ミチ他著 角川ホラー文庫 902円
『堕(お)ちる 最恐の書き下ろしアンソロジー』 小池真理子、内藤了他著 角川ホラー文庫 902円
ホラーの一語は、作品のテイスト(味わい)を表現する時にも使われる。テイストであるならば、他のジャンルとも無理なく合体することができる。
(1)は「決して一人で中に入ってはいけない」という約束事が語り継がれてきた、田舎の一軒家を巡る物語。一人で入ると、中にいる何者かに人生を乗っ取られてしまうのだという。夏のある日、民俗学を学ぶ学生が「家」を訪れて……。第一章のラスト一行は、ホラーの爆風に見舞われるだろう。しかし、第二章以降は「家」のルールによって謎が生まれる、特殊設定ミステリーへと変貌(へんぼう)する。全七章+αの構成が素晴らしい。
(2)は題名とは裏腹に、ディストピア(反理想郷)を描き出した幻想小説集。第六編「卒業の終わり」は寄宿舎モノの青春友情小説、と思いきや……。ルッキズムや家父長制といったトピックから、こんなにも恐ろしい世界を創造することができるとは。
(3)は角川ホラー文庫三十周年を記念して二冊同時刊行され、計十二名が執筆した書き下ろしアンソロジー。最も震撼(しんかん)させられたのは、新名智(にいなさとし)の短編「竜狩人に祝福を」だ。話の途中に分岐点が設けられ、読み手の選択によって展開が変わる、いわゆるゲームブックの形式とホラーが見事に融合している。全選択肢を確認すると、どの章にも繫(つな)がっていない一章の存在に気付く。頭から丁寧に読み返した人だけがその章と出会える、という演出が巧(うま)い。
ホラーにおいて巧い、とは、怖い、ということなのだ。=朝日新聞2024年10月5日掲載