スウェーデン・アカデミーは10日、2024年のノーベル文学賞を、韓国の作家ハン・ガンさん(53)に授与すると発表した。韓国人の文学賞は初めて。アジアの女性としても初となる。
スウェーデン・アカデミーは授賞の理由について、「作品のなかで、過去のトラウマや、目には見えない一連の縛りと向き合い、人間の命のもろさを浮き彫りにした」と説明。「彼女は肉体と精神のつながり、生ける者と死者のつながりに対して独特の意識を持っており、詩的かつ実験的な文体で、現代の散文における革新者となった」とたたえた。
ノーベル賞の公式SNSにアップロードされた電話インタビューで、ハン・ガンさんは「私は韓国で本とともに育ちました。韓国文学や読者、作家仲間にとってこれが良いニュースであることを願っています」と語った。
ハン・ガンさんは1970年、韓国・光州市生まれ。93年に季刊誌に詩が、94年に新聞に短編小説「赤い碇(いかり)」が掲載され、デビューした。心に傷を抱えた人々と、その魂の回復を詩的で繊細な文章でつづり、現代韓国を代表する作家となった。
2002~05年に発表した三つの中編からなる「菜食主義者」に収録した1編で、韓国で最高峰とされる李箱(イサン)文学賞を受賞。国際的な評価も高く、同書の英語版で16年、英国の国際ブッカー賞をアジアの作家で初めて受賞した。
14年には、軍が市民を武力弾圧した光州事件を題材にした長編「少年が来る」を発表。21年の「別れを告げない」は、済州島の4・3事件をもとにした小説を発表していた。ほか、小説に「ギリシャ語の時間」「すべての、白いものたちの」「回復する人間」、詩集に「引き出しに夕方をしまっておいた」などの邦訳がある。
今年の賞金は1100万スウェーデンクローナ(約1億5700万円)。授賞式はノーベルの命日にあたる12月10日、ストックホルムで開かれる。
2016年にブッカー国際賞を受賞したハン・ガンさんの「菜食主義者」の日本語版を出版した「クオン」社長の金承福(キムスンボク)さんの話 本当にうれしい。韓国人作家としての快挙ではあるけれど、それ以上の意味がある。彼女が描くのは、深い悲しみの世界。華やかな物語ではないけれど、その深い悲しみを知ることで、読者はなぐさめをもらえる。先月、彼女の本を読んだ70代の読者から手紙が届いた。夫を亡くした女性で、その思いをつづったもので、私がそれを翻訳して先月、韓国で本人に渡した。すると、本人が目の前で丁寧な返事を書いて、渡してくれた。彼女はそういう人の悲しみにすごく共感し、目をそむけない人。芯がある人だと改めて感じた。戦禍が各地で起きている中、深い意味のある受賞だ。
(ロンドン=藤原学思)朝日新聞デジタル2024年10月10日掲載