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映画「がんばっていきまっしょい」雨宮天さん・伊藤美来さんインタビュー ボート部高校生の青春、初アニメ化

伊藤美来さん(左)と雨宮天さん=篠塚ようこ撮影

(C)がんばっていきまっしょい製作委員会

原作と全然違うことに驚き

――とても真っ直ぐで気持ちのいい青春映画ですが、初めに台本を読んだときの印象はいかがでしたか? 

雨宮天(以下、雨宮):私が演じた悦子の最初の長いセリフが、過去から現在の挫折について語るモノローグで、そのエピソードがリアルに暗いというか、とても印象的でした。一方で、映像はすごくきれいで驚きました。青い海、青い空、その中にもいろんな色が使われているし、キャラクターの目も美しいけど、キャラクターのセリフや心理描写が生々しいなという印象でした。

伊藤美来(以下、伊藤):私も、台本を読んだときに、誰しもきっと体験したことがある、思春期の頃の挫折とか諦めとか、何かに夢中になることへの恥ずかしさとか、そういうものが繊細に描かれているなと思いました。原作と全然違うことにも驚きました。しっかり令和版にリメイクされていて、登場人物の呼び名は一緒だけど名前が違うとか、人物像もガラッと変えているんだけど、伝えたいことは原作と変えずに作っていくという姿勢が素晴らしいなと思って、たくさんの人に届いてほしいなと思いました。

――原作を読んだ感想はどうでしたか?

雨宮:とても読みやすいという印象です。映画の台本を先に読んだので、悦ネエ(悦子)のテンション感の違いとかが面白いと思いました。原作者の敷村先生が、先生ご自身や先輩とか、実際の人物をモデルにしているとおっしゃっていたので、そのときの空気感とか、部室の匂いとか、リアルな感じがすると思いました。

伊藤:私も原作はすごくわかりやすくて、爽やかな気持ちと、がんばる人への勇気がしっかりともらえるような作品でした。時代背景は今とは違いますが、それでも伝わってくる熱さと爽やかさがしっかりあるなと思いました。

――原作がある作品に出演するときは、原作は読みますか?

伊藤:読みますね。原作は役作りや作品の世界観を知る上で大事にしているところです。読んで、そこからハマることもありますし、読者として読むことで、客観的にそのキャラクターや作品を見ることができるので、そのキャラがこうやって喋ってくれたらうれしいなとか、自分で演じる上でのプランが出てきたりもするので、読むのは大事だと思っています。

雨宮:私は、作品によります。漫画だと、読者も絵の印象が強くあると思うので、読んで参考にすることが多いです。本の場合は、読者に映像のイメージがそこまで強くない分、自分が最初に感じたキャラ感でいきたいというか。自分が実際に読むセリフは台本のセリフなので、そっちでしっかりイメージを固めたいなと思うときは、あえて読まないこともあります。

アニメっぽい表現に頼りすぎないバランス

――今回の役作りで意識したことはありますか?

雨宮:リアルなトーンを追求しました。台本や映像から、悦子のセリフや感じていること、ダウナーなテンション感がかなりリアルな感じだったので、抑揚をつけすぎない、アニメっぽい表現に頼りすぎない、その中で、じわりじわりと悦子の気持ちがにじむバランスってどこなんだろうと。いつもとは結構違うアプローチでしたね。リアルさを求めながら、でも、伝わらなかったら意味がないので、そのバランスを考えながら作っていきました。

伊藤:私の演じた姫は、独特なふわっとした空気感がある子で、姫の優しさや気遣いができるところがしっかり伝わったらいいなと思って、元気すぎないというか、ちょっと大人っぽい雰囲気の中に可愛さがあるところを意識して演じました。ボートでは舵を操作するコックスという役割なので、練習や大会のシーンでは、引っ張っていくような、応援する気持ちをもって、みんなを鼓舞できるように気をつけました。

――ボートの掛け声は独特ですね。

伊藤:難しかったです。台本だけ見ても、どうやって言うのか正解がわからなくて、動画を見たりして勉強しました。実際は、そのチームごとに決めているもので、正解はないみたいですけど、監督とお話ししながら、こういうのも録ってみましょうという感じで、本編の後、別に録ったりもしました。

――アフレコは、5人揃ってではなかったそうですが、5人の息がぴったりあっていました。

伊藤:ダッコ(鬼頭明里)とイモッチ(長谷川育美)が先に録って、その後、姫が一人で。

雨宮:最後に悦子とリー(高橋李依)が一緒に。私は、みんなが先に録ったのを聴いてできたので、よかったです。

伊藤:みんながちょっとずつ、ダッコとイモッチの雰囲気から、「こうかな?」と探りながら。最後の二人が微調整をしてくれたんだろうなと思います。

姫と悦ネエの距離感が絶妙

――おふたりが演じた悦子と姫の関係性は、本作の軸にもなっていると思いますが、役作りをする上で、コミュニケーションはとりましたか?

雨宮:アフレコが一緒ではなかったので、特にそういうすり合わせはなかったですね。

伊藤:でも私は、そらっち(雨宮さん)のことをデビュー当時から知っているので、姫と悦子が幼なじみで昔から一緒にいる雰囲気は、自然と出せたような気がしますね。

雨宮:確かに付き合いが長いのもあるし、キャラクター自体も本人と似ているところもあるから、なんとなく想像できたところはあったのかなと思います。もし、完全に初めての方とだったら、どうしよう? ってなっていたかもしれないですね。

伊藤:姫と悦ネエの関係性はすごくいいなと思います。いい距離感というか。

雨宮:姫の距離感が絶妙だと思う。悦ネエの気分を……。

伊藤:害さない(笑)

雨宮:(笑)これ以上言ったら、悦ネエがヒリヒリしちゃうかな、みたいなところをすごく見てくれてる感じがする。生まれながらのコックスというか。逆に、姫はどうしてそんなに悦ネエのことが好きなんだろう?

伊藤:悦ネエの繊細なところとか、自分自身と戦っている姿とか、内に秘めているところとか、姫にとって自分にないものだから、眩しく見えるんだろうなと思いますね。一生懸命生きてる人って応援したくなるし、姫はちょっと大人っぽい考えもあるので、かわいいなって思っているところもあると思います。

雨宮:悦ネエがんばれって(笑)

このメンバーでよかった

――5人の会話のやり取りも、とても自然でしたが、監督から、なにかディレクションはあったのでしょうか?

雨宮:私たちがアフレコする頃には、かなり絵もできあがっていて、口の動きもあったので、監督が用意してくれたキャラクターのテンポ感がそもそもナチュラルだったんだろうなと思います。あとは、先に録ってらっしゃるキャストの皆さんの演技をかなり集中して聴きました。一緒にできないからこそ、お互いどう出るか、どういうテンションで録ったのかなと考えたから、自然な感じになれたのかなと思います。

ボート部のみんなは、声優のキャリアも同じくらいだと思うので、それもよかったのかもしれないですね。相手のお芝居をちゃんと聴ける余裕もある。いいメンバーだったと思います。なんか偉そうですが(笑)。

伊藤:そう言ってもらえてうれしいです(笑)。でも私もこのメンバーでよかったなと思います。みんなで取材とか受けていても、部活の合宿みたいな感じで、いい距離感ですね。私のアフレコのときは、監督が最初にブースに来てくれて「これまで実写でも描かれてきた作品なので、今回はアニメならではの見せたいところと、実写で描かれてきたリアルなところも踏襲していきたい。アニメだけど実写のような、本当に生きているみたいな世界とキャラクターを作りたいんです」と言われました。みんなバラバラで録りましたが、そういうひとつの核みたいなものはあったと思います。

――5人のキャラクターでご自身に近いのは?

雨宮:昔はめちゃくちゃ悦子だったと思います。今はリーが近いかな。思い立ったら行動、でかい声で仲間を集める、みたいな。昔は一人で行動することが多かったんです。人は好きだけど、コミュニケーションが苦手で、避けて一人でいがちだったんですけど、この仕事を始めて、苦手を克服していったら、友だちを作れるようになってきました。それが嬉しくて、友だちを誘って出かけるとか、青春時代にできなかったことを取り戻そうとしているような感じです。

伊藤:私は、悦子の気持ちもわかる。努力してもムリかも…みたいな、こういう日もある(笑)。基本的には、姫に近いような気もします。できるだけ落ち着いていたい、周りを見れる大人でいたいなという気持ちでいるので。わーっと一緒にするよりも、遠くから見て、そうだね、そうかもね、みたいなのが自分に合っているかなと思います。

――本作は、ボートに夢中になっていく女の子たちの青春物語ですが、おふたりは、なにか一生懸命がんばったことはありますか?

雨宮:1年くらい前に、友だち3人で琵琶湖をロードバイクで1周しました。それはキツかったです。

伊藤:どれくらいかかるの?

雨宮:2日。

伊藤:え!テントとか張って?

雨宮:声をかけてくれた友だちの実家が琵琶湖の近くにあって、ちょうど半周地点くらいのところだったので、そこに泊めてもらって。とにかく運がめちゃくちゃ悪くて、雨はすごく降るし、向かい風もすごくて、ぜんぜん進まないんですよ。悦ネエたちみたいに、声を掛け合って、支え合いながら、がんばろうみたいな。同じ苦しみをみんなで乗り越えていくと、絆って深まるんだなと思いました。相性が悪かったら、辛さで分解しちゃうけど、絶妙なバランスでチームって成り立っているんだなって思いました。ゴールして、東京に帰ろうってなったとき、「このメンバーだからがんばれたと思う」って、泣きながら語って、いい体験でしたね。

――その経験も今回生かされて。

雨宮:そうですね(笑)

伊藤:すごい。私は最近、自動車の免許をとりました。周りの人に「教習所に通っていればすぐとれるもんだよ」って言われていたんですけど、記憶力が悪いのか、学科が全然覚えられなくて。仕事が終わって帰ってきて、ドリル見て、教科書見てって、久しぶりに勉強というか、記憶力テストのために頭に入れる作業をがんばりました。がんばらないととれないじゃん、嘘つき!って(笑)

雨宮:免許はけっこうがんばらないととれないよね。

伊藤:みんなすごいなと思いながら。やっと取れて乗り始めましたが、まだ怖いので、慣れるまでに時間がかかりそうです。

――本作の魅力は、どんなところにあると思いますか?

雨宮:この作品は、青春の王道の物語で、すごくキラキラしているけど、今を生きている私たちを置いていかない感じがあるなと思います。それは、悦ネエの描き方がすごくリアルで、観る人がどこかで自分と似てるなって思える作品だからかなと思います。絵はキラキラだけど、みんなの心理描写をリアルに描くことを追求している感じがあるので、ひとりひとりがそこに存在していることが自然だし、観る側も誰かの存在や発言がキラキラしすぎて苦しいという感じがない。自分ごとのように共感して没入していって、最後にはすごく爽やかな気持ちにさせてくれる青春物語だなと思います。

私はネクラなので、キラキラすぎると自分が焼かれちゃうんじゃないかと思ってしまうんですけど、キラキラのバランスがすごくよくて私も置いていかれなかったので、ぜひ、怖がらずに観てほしいなと思います。

伊藤:リアルなトーンで、今、この子たちが実際にいて、苦しんだりぶつかったりしながら生きている姿が、繊細に細かく、3Dと海の素晴らしい映像と一緒に描かれていくので、今までの自分を思い返しながら懐かしい気持ちにもなれると思いますし、今、がんばっている人には勇気を与えてくれる、いい意味で無駄なものがない、洗練された作品だと思います。