ISBN: 9784750357614
発売⽇: 2024/07/01
サイズ: 19.5×3.5cm/488p
「黒人法典」 [著]ルイ・サラ=モランス
奴隷であるとはどういうことか。17世紀末フランスの法学者であれば次のように答えただろう。奴隷とは「動産」である、と。すなわち、家畜や家具のように売り買いされる存在ということだ。
著者、ルイ・サラ=モランスは、17世紀から18世紀にかけて黒人奴隷の取り扱いを定めていた法典(通称「黒人法典」)を取り上げて、その非人道性を迫力ある表現で語り上げる。そして同法典が奇妙にも無視されてきた事実を告発している。歴史で称賛される奴隷制の批判者たちは黒人法典について奇妙にも沈黙するか無関心であると彼は言う。
著者によれば同法典は「怪物的」な性質を持つ。それは表面上黒人奴隷を人間とみなすかのような条文を含みながらも、実際には家畜並みに権利を持たない無能力状態に押しとどめる矛盾した内容であるからだ。たとえば、奴隷は奴隷主に刃向かえば命を落とすが、奴隷主は奴隷を殺害しても容易に赦免される。
本書は論争の書だ。1987年の初版以後、版を重ねてきた(本訳書の底本は2018年刊の第13版)が、支持者と批判者が存在し続けている。しかも著者と方向性が近そうな研究者、『奴隷制廃止の世紀1793―1888』の著者、ドリニーらとも対立してきた。
その理由は本書がすぐれて思想的かつ文学的に法を読み解いていることにあるだろう。著者は黒人法典の条文を人種差別思想の非道さを代表する文言として読む解釈を提示している。しかし歴史研究者が関心を持つのは当時の価値観に照らした法典の評価であり、その視点からすると同法はましな部類とすら映る。両者は嚙(か)み合わない。
だが、過去と現在における当事者の痛みと一体化するかのような語りゆえに本書が多くの人に届き版を重ねたのもまた事実である。フランスの歴史教育に影響を与えたともいわれる。本書は間違いなく人々の盲点を突いた発見の書である。
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Louis Sala-Molins 1935年、スペイン・カタルーニャ生まれ。哲学者。著書に『ソドム 法哲学への銘』など。