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光浦靖子さん「ようやくカナダに行きまして」インタビュー ゆったりと変化を楽しむ

光浦靖子さん

 50歳でカナダへ渡り3年。語学学校と料理学校に通い、今後3年間の就労ビザを得て秋に一時帰国すると、肌つやがいい、と話題になった。

 「バンクーバーは自然豊かで、すべてゆったり。すし詰めの通勤電車に耐えてる日本人って、驚異的に優しいんじゃないかと思う」

 そのカナダ生活1年目、語学学校での日々を記したエッセーが本書だ。コロナ禍もあり、とにかく右往左往した。英語が聞き取れない。ネット契約も一苦労。授業では年の離れたクラスメートに追い越されていく。会話も乏しい。あからさまに無視され、アジア人蔑視?と震えたことも。

 何度も泣き、それでもプライドと折り合いをつけ自分の殻を破っていった描写は、冷静かつユーモラス、どこか「乙女ちっく」で魅力的だ。

 友人にも恵まれた。中でもコロンビア人のヘレナ。振れ幅の大きな感情をあらわにし、いつも気にかけてくれる人だった。よく笑った。

 「笑いのハードルが低くて何でも素直にゲラゲラと。いいな、と思った。笑うって、やっぱりみんなが一番ハッピーになることだから」

 振り返れば、常に他人の視線を意識し、批評し、相手の言動を疑い、何が求められているかを考えていたと話す。「毒舌」も、周囲の求めに応えた部分もあったという。

 「お笑いってほんとに難しい。自分に合格点を出したことはなかなかなくて。来年は面白い人間になれるかしら……とやってきましたね」

 だから留学先での心持ちの変化を、自分でも新鮮に受けとめている。細かいことを気にし過ぎなくていい。力を抜いて大丈夫。人をほめることに肯定的でありたい、と。

 「やっとまともな、平均的な人に近づけたかな」

 手芸作家としても知られるが、今月半ばカナダに戻り、ワークショップと作品販売の仕事を再開している。十数人の定員はすぐに埋まる人気。料理学校時代のあれこれも、本を出す予定で書き進めている。さて、タレント活動は?

 「続けたいですね。なんだかいろいろなことが、楽しくなってきたのでね」(文・藤生京子 写真・文藝春秋社提供)=朝日新聞2024年11月30日掲載