信じられないくらいの接写。まさに奇跡的な、特別な一枚に見えるが、このテンションが178枚続く。それがいい。なぜなら大量にあることで、写真を〈特別な一枚〉にしないから。奇跡なんて日々起こってるのさ。そんな声が聞こえてきそうな写真集だ。朝の始まりに自然が作り上げる露のしずく。近寄ったらあっけなく壊れる、人のいない、繊細な風景を捉える。著者は、この撮影を「露のしずくと共存すること」という。「命」を感じているのだ。
向こう側が反転して見えている。一粒が、レンズとなって風景を写す。建物の一部が、あるいは馬の姿が、しずくの中に小さく見える写真もある。自然は偉大な写真家だった。本書はそのことに気づかせてくれる。
メッデル・フクスはスイスの写真家で、今回が本邦初紹介となる。12年にわたり、このシリーズを撮り続けた。フクス自身が好きな俳句、短歌をところどころ添えているが、それは一瞬写真を忘れるため。写真集だから、ついパラパラ、ページをめくる手も速くなりがち。慌てないで。私たちの手にそっとブレーキをかけるために蕪村や芭蕉が動員されている。品のある言葉の使用法だ。
高価だが、本は贈り物にもなる。誰かと一緒に〈日々の奇跡〉を目撃するのも、この時期には自然なことだと思う。=朝日新聞2024年12月7日掲載