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村山由佳さん「PRIZE―プライズ―」直木賞作家が描く選考の裏側と、創作の本質

村山由佳さん

 天羽(あもう)カインはライトノベルの新人賞からデビューし、本を出せばベストセラーという人気作家だ。書店員の投票で選ばれる本屋大賞を受賞するも、作家が選ぶ文学賞には縁が無い。あるときは「人間が書けていない」と言われ、別の作品では「人間にはもう少しわからなさが欲しい」と否定され、落選を重ねてきた。これらの講評は選考会の決まり文句ではあるが、言われた方は納得がいかない。選考委員に募らせた憎悪は、編集者への八つ当たりとなり、評価されない苦しさと絶望が激しい怒りとなって噴き出す。

 若手編集者と、旧知の編集長の視点も交え、作家が編集者と共闘しながら物語を生み出していく過程で、1行の完成度を求める貪欲(どんよく)さが美しくも恐ろしく描かれる。

 候補作を選ぶ予備選考の流れから取材し、文芸春秋の編集者らが関わる投票の仕組みを作中で詳細に明かしている。「局長も新人も予備選考では同じ1票を持つ。その数字は変えられない。意外とフェアに決まっていくことを知り、うれしく思いました。私は文春の本で直木賞をいただきましたが、ゲタをはかせてもらっていたわけではないらしい」と笑う。

 村山さんは2003年、39歳のときに「星々の舟」で直木賞を受賞した。初候補での受賞だったが、ほかの賞で落選の悔しさは知っている。「自分が同じ目にあったら、他人には見せないけれど荒れ狂うだろうなと」。そして直木賞を機に、見えていた景色は確かに変わった。

「依頼の幅が広がりました。直木賞のありがたみを感じています」

 一方、小説すばる新人賞などで選ぶ側の立場も経験してきた。選考委員の間で読みが正反対になることもしばしば。「評価すること、選考することは難しい」とつぶやく。「自分の読みが古くさくなっていないか、新しいものを認められていないのではないか、という怖さがある。でも、これはないと思ったらそう言いますけどね」

 21年に伊藤野枝を描いた「風よ あらしよ」で吉川英治文学賞を受けた。これでエンタメ系の文学賞は総なめだが、「いただけるなら本屋大賞がほしいし、翌年の税金の心配をするような大ベストセラーを一発飛ばしたい」と望みは尽きない。作品の評価と本の売れ行きは往々にして一致しないもの。「でもやっぱり両方ほしい。小説家としての私の生の欲望なんだと思います」

 デビュー以降の青春恋愛小説から、近年の骨太な評伝小説まで、どの作品にも性欲、食欲、物欲、支配欲とあらゆる欲望が渦巻いている。

 「欲望をむき出しにすることにタブーの意識が強くあります。タブーだから書けるのかな。ひとに言うのは怖いのに、どうして小説なら何でも書けるんだろう。言葉にすることで自分の中で認められるようになり、だれかとつながることもできる、そんな思いがあるのかもしれません」(中村真理子)=朝日新聞2025年2月12日掲載