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「ガザの光」書評 極限状況で紡がれた抗いの物語

評者: 三牧聖子 / 朝⽇新聞掲載:2025年02月15日
ガザの光――炎の中から届く声 著者:リフアト・アルアライール 出版社:明石書店 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784750358543
発売⽇: 2024/12/09
サイズ: 19.6×3cm/384p

「ガザの光」 [著]リフアト・アルアライールほか

 先日、トランプ米大統領からガザに関する衝撃発言が飛び出した。「解体現場のようだ」「住民全員を移住させた上で再開発する」。国際法も人権も踏みにじる発言に批判が相次いだ。
 無知と想像力の欠如をさらした米大統領だが、それを批判する私たちは、ガザとそこに生きる人々をどれだけリアルに想像できるだろうか。20年近いイスラエルによる軍事封鎖は、ガザへの人や物資の移動を制限するだけでなく、住民の声を封殺し、ガザを理解や想像力が及ばない地にしてきた。
 極限状況でガザの人々が紡いできた物語を収めた本書は、爆撃は人間の身体や建物は破壊できても、不正義に抗(あらが)う意思までは破壊はできないことのまったき証明だ。イスラエル支援を続ける欧米諸国では、パレスチナの地でパレスチナ人が育んできた歴史を語ることですら、「反ユダヤ主義」とみなされ、はばかられる雰囲気も生まれている。本書は、ガザの人々の声や存在が抹消されつつある言論空間への抗いでもある。
 現在国際司法裁判所では、イスラエルによる「ジェノサイド(集団殺害)」を問う裁判が続いている。この言葉を生み出したユダヤ系ポーランド人の法律家レムキンは、大規模な殺戮(さつりく)のみならず、文化的破壊の意味も込めていたが、読者はレムキンの意図を知ることになる。文化は民族集団の存続にとって不可欠の基盤だ。だからこそイスラエルは、図書館や大学をも破壊し、パレスチナ人が自分たちの歴史を語り継ぐこと自体をできなくしようとしてきた。
 イスラエルによる空爆で殺害された詩人アルアライールは、本書に寄せた「ガザは問う」で読者にこう呼びかける。「この本に意味を持たせてくれますか?」。イスラエルの数多(あまた)の攻撃を耐え忍んできた「ガザの光」を、不作為によって絶やしてしまうことがないように、私たちは何をすべきか。行動を促す書だ。
    ◇
Refaat Alareer ガザ・イスラーム大で教えた詩人。2023年死去。本書はパレスチナ人によるエッセーなど15編を収めた。