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「ダンス」/「二十四五」書評 濃密な二人ゆえのもつれ絡まり

評者: 吉田伸子 / 朝⽇新聞掲載:2025年02月22日
ダンス 著者:竹中優子 出版社:新潮社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784103560814
発売⽇: 2025/01/15
サイズ: 19.4×1.3cm/128p

二十四五 著者:乗代 雄介 出版社:講談社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784065383285
発売⽇: 2025/01/16
サイズ: 13.5×19.4cm/112p

「ダンス」 [著]竹中優子/「二十四五」 [著]乗代雄介

 「今日こそ三人まとめて往復ビンタをしてやろうと堅く心に決めて会社に行った」
 不穏な書き出しに、なんだ、なんだ? と思ったものの、すぐに納得。だって、「私」がビンタを喰(く)らわそうとしているの、同じ職場で三角関係になった三人なんですよ。でもって、その三角関係の当事者たちがもちゃもちゃになって休みがちになっているため、その分の仕事のしわ寄せが全部「私」のところに来ているのだ。往復ビンタじゃなくて、グーパンチでもいいよ。許す。
 竹中優子さんの『ダンス』で描かれているのは、そんな「私」と下村さんとの日々だ。三角関係の一角である下村さんは「私」の指導役で、お姉さん的ポジションだった。下村さんにしゃっきりしてほしい「私」は苛立(いらだ)つのだけど、まぁ、こればっかりはねぇ。やがて、「私」が他部署へ異動となり、下村さんとの日々は終わる。
 物語はその後、十五年ぶりに偶然に再会した「私」と下村さんを描く。淡々としたそのシーンに、濃密だった二人の日々が透かしみえる。そうか、絡まったりもつれたりする人間関係の有り様は、ちょっとダンスに似ているかも、と思う。
 「私」と下村さんのように、職場の同僚なら部署変わりなどで距離はできるが、乗代雄介さん『二十四五』の景子にとって、叔母・ゆき江ちゃんはそうはいかない。亡くなって五年が経ち、作家になった今も、景子の心の真ん中にいる。悲しいとか一言も書かれていないけど、景子の喪失の深さは随所に顔を出す。
 弟の結婚式のために向かった仙台での三日間が描かれた本書。景子が新幹線で知り合った夏葵(なつき)(漫画『違国日記』つながり!)の、屈託ない感じがいい。景子が、夏葵と二人、イオンモールでわちゃわちゃするラストが、読後も余韻を残す。
 不器用な景子のことがもっと知りたくなった人は、同作者の『十七八より』もぜひ。
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たけなか・ゆうこ 『輪をつくる』で現代短歌新人賞▽のりしろ・ゆうすけ 『旅する練習』で三島由紀夫賞。