- 『東京新大橋雨中図』 杉本章子著 文春文庫 968円
- 『天馬は空(くう)をゆく』 金椛国駿風 篠原悠希著 角川文庫 792円
- 『先駆けの勘兵衛』 松永弘高著 小学館時代小説文庫 1034円
これまではテーマを決めてきたが、今回は自由選書とさせていただく。
光線画で名高い明治期の絵師、小林清親を主人公にした(1)は、清親と、清親に関わる女性たちを主軸にした人情時代小説。主人公清親の人物造形が秀逸。明治の時代にあって武骨で古風な物腰を残す不器用な男として描写され、その惑いが男の可愛げにまで昇華されている。愛すべき男、小林清親が出会う、明治という時代の暗がりとビターな恋模様を、淡々としつつも温かな手つきで描き切った絵師小説の傑作。
架空中華風王朝、金椛(ジンファ)国を舞台にした(2)は、政府高官の息子星天賜(てんし)、名家陶家の阿燁(あよう)、皇帝の第十六皇子の司馬澳飛(おうひ)の3人を主人公にした広義の青春時代小説。自分の興味に従い火薬を調合し、結果的に事件を呼ぶことになる純真な暴れ馬・天賜、そんな天賜に惹(ひ)かれ行動を共にするうちに自身の秘められた過去を知るに至る阿燁、そんな2人を優しく見守る澳飛、この個性のバランスが絶妙。本作は同著者「金椛国」シリーズの最新作だが、本書から手に取られてもよいだろう。
戦国期の武士、渡辺了(勘兵衛)を主人公にした(3)は、彼の若い頃にスポットを当てた歴史小説。主家が本能寺の変以降の政変により没落し、浪人した勘兵衛が羽柴秀吉方に身を寄せ、対柴田勝家戦で活躍するまでを描く。信長、秀吉を始め、石田三成、加藤清正、福島正則、藤堂高虎といったビッグネームが次々に登場するも、それら英傑に負けない個性を放つ、渡辺勘兵衛の快男児ぶりを活写。=朝日新聞2025年02月22日掲載
