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「ソラリス」をマンガ化、森泉岳土さんインタビュー 複雑さを複雑なままに

森泉岳土さん

 ポーランドの作家スタニスワフ・レムが書いた小説『ソラリス』(沼野充義訳)をマンガ化した。原著は1961年に発表され、日本のSFファンが選ぶ海外作品のオールタイム・ベストでも長く1位にとどまる名作。とかく「難解」とされてきた作品世界に正面から向きあった。

 惑星ソラリスに地球から派遣された主人公のクリス・ケルヴィンは、ステーションの異変に戸惑う。散らかった船内、「誰か」におびえたような科学者。そこで彼が出会ったのは、10年前に亡くなったはずの妻だった――。

 初めて原作を読んだのは2004年。「こんなにすごいことがSFにはできるんだ、と思って打ちのめされた」と振り返る。「ぜんぜん消化しきれないまま」だったが、5年ほど前に版元から仕事を打診されたとき、最初に浮かんだのが「『ソラリス』をやりたい」との思いだった。

 「僕は基本的に複雑な話が好きなんです」。これまでもカフカの『城』やオーウェルの『一九八四年』といった小説をコミカライズしたが、いずれも「作品の複雑さを、複雑なまま移行できればいいなと思っていた」と言う。

 背後にあるのは、豊かな読書体験だ。子どもの頃から本を読むのが好きで、「現実からどこか別の場所に行くための扉みたいなものだった」。本の内容を頭のなかで想像したり、補ったりするのが楽しく、「マンガを描くときも、小説や詩の行間みたいなものをどうやったら閉じ込められるだろうと考える」。せりふの間や余白に語らせる構成を追求する姿勢は、登場人物の気持ちを決めてしまわないように「顔を描きたくない」と悩んだことがあるほどだ。

 「100人いたら100通りの読み方がある」と魅力を話す本作は、格好の題材だった。〈地球上のなににも似ていない形成物をつくり出す〉とされる「海」は、濃さの異なる複数の鉛筆を使い分け、長いもので1枚の絵に9時間以上をかけて描き込んだ。

 「消化できないものを消化できないかたちで描いた。答えを出すのがコミカライズの仕事ではないと思います」。言葉に信念が宿っていた。 (文・山崎聡 写真・横関一浩)=朝日新聞2025年3月1日掲載