石田祥さん「猫を処方いたします。」5 インタビュー 小さな命を大切にしたい
動物好きだ。子どもの頃からいつもかたわらにいたのは小鳥だった。「強烈な鳥派。鳥の話を始めると2時間くらい続きます」と笑う。意外にも猫は飼ったことがない。感情移入が激しい性格を考慮してのことと言う。「猫も犬も好きなんです。でももし飼ったら、世話だけで日常のサイクルが大きくかわってしまうと思う」。そうは言っても、猫が登場する作品を書くのに「さわったこともないのはまずい」。2021年に双葉文庫から『元カレの猫を、預かりまして。』を出版した後、猫カフェに2、3度通った。
そもそも取材せずに書くタイプだ。たとえば特殊な職業の登場人物がいても、あえて深い調査や現場取材は行わない。「私が書くのはファンタジーとコメディー。想像を自由に広げるほうがいい」
本シリーズの主人公(主猫公)は京都市内の古びたビルで「クリニック」を営むニケ先生(実は猫)。悩みを抱えてやってくる人間に薬ではなく猫を処方し、心の傷を癒やしていく。物語が進むにつれて、ブリーダーによる多頭飼育崩壊の凄惨(せいさん)な現場との関わりも明らかになるが、そうしたディテールは「ニュースで知った知識をもとに書いています」。登場する猫や人物のモデルも当然いない。
ただ、「猫をモノかのように思われないこと」を強く意識する。「動物を飼うのは簡単なことではない。猫を安易に飼うような発想に結びつかないことに、気を付けています」。猫のモフモフとかわいい描写の前後に、飼育の苦労を丁寧に書き込む。保護猫が存在する背景には悪質なブリーダーが存在することも指摘する。「小さな命を大切にする。そのメッセージはいつも作品に通底させています」
次は鳥をテーマに作品を手がける考えは? 尋ねるとこう返ってきた。「鳥の人気が高まり、流行(はや)りで飼われないように、書けません」
シリーズで紡いできた物語を終えるには、もう少し時間がかかりそう。「登場人物(猫)それぞれを幸せにしたい」。数十カ国での翻訳契約も成立している。猫は国境も越えて、人を癒やす。(文・太田匡彦 写真・楠本涼)=朝日新聞2025年11月22日掲載