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伊沢正名さん「うんこになって考える いのちを還す野糞と土葬の実践哲学」インタビュー ひねり出した循環の思想

伊沢正名さん

 野糞(のぐそ)歴50年で到達した「糞土(ふんど)思想」のエッセンスは、「食は権利、うんこは責任、野糞は命の返しかた」。

 トイレに流せば、大量の資源エネルギーを使ってし尿処理され、セメント原料などに終わる。その事実を知り、1974年元旦から信念の野糞を始めた。自然の中に置けば、動物が食べ、菌類が分解し土が肥え、植物が生育し、新たな命を育む。1万7千回に及ぶ実践で、その循環の真理を確かめてきた。

 「フードロスだ、自然派志向だと言う前に、まず水洗トイレに流すのをやめるのが先決。食べて命を奪うだけでいいのか。命を自然にかえす責任を果たさないと」。本気のSDGsである。

 「場所選び、穴掘り、葉で拭き、水仕上げ、埋めて、目印、(同じ場所では)年に1回」。正しい方法を標語にし、実家の古民家を改修した「糞土庵(あん)」で門をたたく人を待っている。訪れる人が安心してできるよう、数年前に近くの森を購入し「プープランド」と名付けた。鳥の巣状のテラスや遊具も整備し、子どもも楽しめるようにした。豊かになった森では世界的に珍しい菌類も見つかったという。

 かつては、医師を志し茨城県下随一の進学校に通ったが、通学列車で大人たちの醜い会話に嫌気がさし高校中退。仙人をめざした。一時期はきのこ写真家として名が知られる存在だったが、その経歴もさっぱり捨て20年ほど前から「糞土師」を名乗り始めた。いまでは講演で各地を訪れ、映画出演でも注目を集める。

 2015年に舌がん、さらにその後歯の多くを失った。医療を受けることなく、「自然の摂理に従って食えなくなれば死のう」と決め、自らの肉体をも土にかえす腹を固めた。墓地ではないプープランドでの土葬は法律上認められないが、社会の「エセ良識」と闘ってきた心はいっそう奮い立つ。

 「法律という大きな敵だからこそ、ひっくり返しがいがある。あと何年生きるか分からないが、シャレあり笑いありで世論を喚起していきたい」。現代の聖(ひじり)はそうのたまうのである。 (文・写真 木村尚貴)=朝日新聞2025年11月15日掲載