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原子力と社会 政策転換、周到に検討されたか 寿楽浩太

東京電力福島第一原発=2月21日、福島県大熊町、朝日新聞社ヘリから、小宮健撮影

限界と矛盾考えて

 鈴木達治郎著『核兵器と原発 日本が抱える「核」のジレンマ』(講談社現代新書・品切れ、電子書籍あり)は、書名の通り、核兵器との関係がもたらす「限界と矛盾」を私たちがもっと強く意識して原子力政策を論じることを促す。

 日本の原子力利用はそもそも、いわゆる核不拡散体制のもと、さまざまな国際約束に厳格に縛られている。特に、いわゆる「核燃料サイクル」政策は、ウラン濃縮や使用済み核燃料の再処理、取り出されたプルトニウムの扱いなど、核不拡散上、「機微」とされる要素を多く含み、その影響範囲は国内にとどまらない。もし不用意な政策によって核不拡散体制を動揺させれば、日本や周辺地域、世界の安全保障を脅かす一因にもなりかねないのだ。

 今回の政策転換はこの側面から見て責任あるものなのだろうか。鈴木は原子力政策の研究と核廃絶に向けた国際的な取り組みに長年携わり、原発事故当時は政府の原子力委員長代理であった。その鈴木が、事故後の政策展開に対して示した憂慮は、さらに深まるように思われてならない。

社会全体で知恵を

 鈴木の言う「限界と矛盾」が原発事故以前から連続するものであることをさらにはっきりと示すのが、吉岡斉著『新版 原子力の社会史 その日本的展開』(朝日選書・2090円)だ。同書の旧版は原発での事故・トラブルなどが相次いだ時期の1999年に上梓(じょうし)され、賛否の立場を問わず原子力関係者必携の書となった。

 科学史家の吉岡は、歴史をひもとくことで、なぜ原子力政策が繰り返し非合理性を抱え込むのか、その根本を問うた。原子力の資本集約性、核兵器との表裏の関係といった固有の性格ゆえに正当化された、政治・行政・産業の「官産複合体」による政策決定の独占が、電力業界・旧通産省の勢力と旧科学技術庁の勢力の「二元体制」のもと、近視眼的な辻褄(つじつま)合わせばかりを繰り返して公益を損ね続けたことを吉岡は鮮やかに描いた。

 新版では原発事故直後までの10年余の間、この問題点が改まるどころか混迷を深めたさまが加えられている。

 吉岡は2018年に他界したが、今回の政策転換もまた、彼が掲げた「非共感的」な立場からの批判的な分析にさらされるべきだろう。

 一方で、意識される機会が増えたのが高レベル放射性廃棄物(「核のごみ」)の処分問題だ。2020年に北海道の2町村が地層処分場の候補地選定調査を全国で初めて受け入れて以来、特に道内では報道量も増え、人びとの関心が高まっている。

 ところが、他地域ではどうだろうか。調査地域の地質の科学的な適否や地域同意を踏まえ、地域内で決着する問題だという受け止めが生じているようにも感じる。関口裕士著・北海道新聞社編『北海道新聞が伝える 核のごみ 考えるヒント』(北海道新聞社・1100円)は、地域での報道の最前線に立つ著者らが豊富な図表や写真を交えて最新の情報、基礎的な知識を平明に供する。10万年に及ぶ安全が平然と話題にのぼるこの問題にどう対処するか。関係地域だけでなく、社会全体で知恵を絞らねばならない。=朝日新聞2025年3月8日掲載