
ISBN: 9784560091364
発売⽇: 2025/03/01
サイズ: 18.8×3.1cm/432p
「厨房から見たロシア」 [著]ヴィトルト・シャブウォフスキ
本書によると、プーチン大統領の伝記のほぼすべてに彼の祖父がレーニンとスターリンの料理人だったと書いてあるという。が、真偽の問題ではない。かつてレーニンは「料理人がどれほど重要か」を説いたというし、「国家元首の食事は最高機密のひとつ」で、国の「安全保障に関わる問題」なのだ。それならプーチンの伝記が「ソ連の指導者たちが私の祖父を信頼したのだから、皆さんも私を信頼していい」と囁(ささや)いているように読めても不思議ではない。
これはほんの一例だ。著者は「最後のロシア皇帝一家と運命を共にした料理人からプーチン大統領の祖父まで」ロシアのプロパガンダがいかに厨房(ちゅうぼう)から機能するかについて、およそ100年に及ぶ話の数々を当事者たちから聞き出して一冊にまとめた。話し手たちが天寿をまっとうし、ロシアのウクライナへの軍事侵攻によって著者の母国とロシアの関係も悪化したいま、同じような取材を行うことは不可能になった。だが、繰り返すが重要なのは真偽ではない。ことは統治に関わる。真偽だけでは動かない。食が国家機密ならなおさらだ。むしろ真っ先に操作の対象となる。結局、真実は誰にもわからない。
たとえば宇宙開発の大競争時代を知る者が語る「宇宙に行くとほとんどみんな玉ねぎをおいしいと感じる」話、チェルノブイリでの大事故の直後に開かれた原子力発電所料理コンテスト、「ソヴィエト連邦最後の晩餐(ばんさん)」に出されたのは「ウクライナの首相が仕留めた」イノシシを(連邦国家のように)解体して作ったグヤーシュ(スープ)だった……。
「軍隊が出動すれば、調理師も真っ先に出動する」。アフガニスタンへの「平和的介入」下で、兵隊たちは誰が作ったどんなものを食べていたのか。本書には随所に聞き取りで得たレシピが掲載されている。ロシア100年の皿にのる味はどんなだろう(もちろん自己責任で)。
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1980年生まれ。ポーランド人ジャーナリスト。ルポルタージュで数々の賞を受けてきた。著書に『独裁者の料理人』など。