「ONE DAY ホロコーストと闘いつづけた父と息子の実話」
ONE DAY――ある日、一日がキーワード。人生を変える決定的な一日がある一方、終わりの見えない一日が続く。
第二次世界大戦中、ユダヤ人の主人公とその父親はパリで身を隠し、レジスタンス活動をしていたが、ある日、捕らえられて収容所に送られる。骨と皮だけになった体で強制労働に明け暮れる日々、目の前のその日、一日だけを、ただ生き延びる。
毎日収容所からユダヤ人が、知らないどこかへ連れていかれる。二度と帰れないその不気味な「どこか」を主人公たちはナンセンスな架空の地名で呼び、「ピチポイなんて行くもんか」と繰り返し、恐怖と闘う。
仲間と逃げるためトンネルを掘る作戦を開始した日、それがナチスに発覚してしまった日、そして主人公ら1200人のユダヤ人を乗せた列車がピチポイ(ホロコースト)に向かった日……人生の転機となる「ある日」をつなぐ、一日一日。
死と絶望の淵に立つ過酷な日々を生き抜いた、史実に基づく物語。暗くても人間の温(ぬく)みを伝える絵。80年後の今を生きる私たちに希望を語りかける。(絵本評論家・作家 広松由希子さん)
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マイケル・ローゼン文、ベンジャミン・フィリップス絵、横山和江訳、鈴木出版、2200円、小学校中学年から
「中受 12歳の交差点」
都立受験に挑む新(あらた)、居場所を求める広翔(ひろと)、大好きなバレーを続けたいつむぎ。三人の12歳が、それぞれの事情を抱えながら中学受験という人生の岐路と向き合う。
難関中学に入るためだけではなく、選択肢の一つとして、居心地のいい場所や思い切りやりたいことができる環境のために中学受験を選ぶこともできるのだ。安心して子どもたちが挑戦できる場をつくっていく作中の大人たちの存在も、心強い。
未来に悩んだとき、自分らしい道の選び方を教えてくれる一冊。(丸善丸の内本店 兼森理恵さん)
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工藤純子著、講談社、1650円、小学校高学年から
「もしも君の町がガザだったら」
今、戦争や平和について考えるなら、毎日殺されていくガザの子どもたちに目を向けてほしい。本書は、書名からも推測できるように、日本の子どもたちがパレスチナの現状を自分ごととして考えるのに役立つ。
「なぜ世界はイスラエルの理不尽な暴力を止めることができないの?」とか「ホロコースト犠牲者であるユダヤ人のつくった国が、なぜナチス同様にパレスチナ人を大量に殺害しようとするの?」という素朴な疑問にも答えてくれる。平和をもたらすために働いている人たちや、本や映画の紹介もある。(翻訳家 さくまゆみこさん)
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高橋真樹(まさき)著、ポプラ社、1980円、小学校高学年から=朝日新聞2025年8月30日掲載