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「月虫の姫ぎみ」ほか子どもにおススメの3冊 昔話に新解釈、月見上げゾクリ

「月虫の姫ぎみ」

 満月の夜、じっと月を見ていると黒い影が横切ることがある。それが、月虫。星くずに産みつけられた卵は運が良ければ引力に引かれて、地球に落ちてくる。地上に落ちた卵はしばらくすると、幼虫になり、隠れ家に身を隠す。そして、ヒトに擬態する。そして光を放ちヒトを呼び寄せる。だいじにだいじに、育ててもらうために。
 美しく成長した姫ぎみ。虫なので、もちろん、求婚者にもプレゼントにも興味はない。そして、十三夜の月の夜がやってくる……。
 表紙の姫ぎみの妖しく強い眼差(まなざ)しに、射抜かれる。「もしかしたら、私たちのまわりにも、人間に姿を変えた月虫たちがいるかもしれない」。圧倒的迫力と妖艶(ようえん)な美しさにゾクリとして、まわりを見まわしてしまう。
 昔話を下敷きにした、新感覚のスペースファンタジー。こんな解釈があったのかと、読み終えたあと思わず月を見上げてしまうだろう。ソリ、ソリ、ソリ、ソリ……。やっと涼しくなってきた秋の晩、そっと耳をすませば、月虫が殻を破る音が聞こえてきそうだ。【丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん】

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 富安陽子文、五十嵐大介絵、講談社、1870円、6歳から

「ひぐま」

 実りの秋。雪が積もる前にヒグマは、ひたすら食べねばなりません。ヒグマの母さんは冬眠中に出産します。食事も排泄(はいせつ)も一切せずに春を待つのです。200キロの巨体から400グラムの小さな赤ちゃんを生み育てるなんて、びっくり。日本では北海道だけに生息する最大の動物ヒグマの越冬。巣穴の中にこもる呼吸とぬくもりが、大自然の季節の移ろいとともに描かれます。子グマの見る初めての春のまぶしいこと。野生のいのちの神秘に触れ、共生についても思いを巡らす一冊。ヒグマを知るQ&Aの折り込み付き。【絵本評論家 広松由希子さん】

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 あべ弘士作、ブロンズ新社、1760円、3歳から

「おしゃべりねずみゴル・ゴーン・ゾラ」

 食いしんぼうのゴル、おとなしいけど賢いゴーン、元気いっぱいのゾラ。人間の言葉をしゃべる3匹の子ねずみたちが、チーズ屋の人を助けたり、ゆうれいを呼び出す会にもぐりこんだり、ねずみとり男と対決したりと、冒険を繰り広げます。
 スリル満点のストーリー展開にドキドキハラハラしながらも、子ねずみたちの会話に思わず笑ってしまう場面もしばしばあります。特にゴルのゆかいな言い間違えと、それを注意するゴーンのやりとりはおもしろいので注目して読んでください。【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】

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 小森香折作、平澤朋子絵、偕成社、1650円、小学校中学年から=朝日新聞2025年10月25日掲載