「ぼくのシェフ」
有名なシェフの息子として生まれたシャールは、まわりの大人たちに甘やかされて育ったので、他人を思いやることができないでいた。心配した父親は13歳になった息子を慈善団体の活動に参加させる。貧民街と呼ばれる貧しい人たちが住むエリアでシャールがスープを作り、並んだ人たちに配っていると、そこに、きたない格好をした少年アズレがあらわれる。その時、彼のとった行動からアズレの天才的な料理の才能に気づいたシャールは彼に料理を教えることにした。はじめはうまくいっていた2人の関係だが、あることがきっかけでアズレは姿を消す。
立場の違う2人がおいしい料理を作ることで、いのちをつなげていく大切さに気づいていく物語。巻末に六つの料理のレシピが載っていることと、内容とマッチしたイラストが魅力的である。そして「料理人は表現の幅を広げつづける芸術家である」ということばが印象に残った。
作者はヤングアダルト文学の新しい書き手として注目されていて、その独特な世界観は読者を魅了する。【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】
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長谷川まりる作、西村ツチカ装画・挿絵、くもん出版、1650円、小学校高学年から
「年表でたどる 世界まるごとアート図鑑」
7万年以上前の石に刻まれた模様から現代アートまで、世界の美術品500点以上を写真で紹介している。本書の特徴は、ヨーロッパ偏重にならず、世界の様々な美術品を均等に視野に入れようとしているところと、それを年表形式で時の流れと共に見せようとしているところ。日本美術も、縄文土器や埴輪(はにわ)から草間彌生まで様々な作品が、同時代の世界の美術品と共に掲載されている。時間軸を離れて古今東西の作品を集めた「芸術のなかの子ども」「神話と神聖な物語」といった見開きもあって、楽しめる。【翻訳家 さくまゆみこさん】
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ドーリング・キンダースリー社編集部企画・編集、水島ぱぎい訳、宮下規久朗監修、BL出版、4950円、小学校高学年から
「うっかりくまさんたちの おかしなおんがくかい」
まちにまった音楽会の日。演奏者のくまさんたちは楽器を持っていくはずが、手にしているのは、ぜんぜんまったく、ちがうもの。でも、うっかりくまさんたちはうろたえません。楽器じゃないものをかまえて、堂々と演奏会はスタートです。
いちいちすべてが、ヘンすぎる。なにからなにまでとぼけているけど、間違えたってなんのその。堂々とやり切るうっかりくまさんたちに大きな拍手を送りたい! チャーミングなポンコツ感に心も体も一気に緩む、新感覚の絵本です。【丸善丸の内本店 兼森理恵さん】
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へんみあやか作・絵、Gakken、1650円、3歳から=朝日新聞2025年9月27日掲載