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光用千春「次の整理」 創作の根幹に、他者への想像力

『次の整理』(1) 光用千春〈著〉 小学館 770円

 小説家になりたい、と思っている/いた人は日本中にどれだけいるのだろう。本作の主人公の女性・黒川もその一人。清掃員として働きながら書き続けるも落選続き。けれど自分には「何か」があると信じている。そんなある日、個人宅の清掃を依頼されて向かった先は愛読する売れっ子小説家の家。そこに現れたのは、高校時代いじめに遭っていた隣の席の女子だった。

 10年ぶりの思わぬ再会。が、彼女は自分のことを覚えていない。しかも、掃除が目的ではなく、筆が止まった作家への刺激剤として「モノづくりに携わったことのない人」を編集者が手配したと知り、屈辱と怒りに震える。

 才能とはいかに残酷なものか。ある種の無邪気さから発せられる作家の言葉は暴力的ですらある。とりわけ黒川の原稿に対する評は誠実ゆえに殺傷力が高い。しかし、それを正面から受け止める黒川もまた誠実で貪欲(どんよく)だ。

 独特のリズムを刻む二人の対話は、ラップバトルのよう。ライバルともシスターフッドとも違う「一緒に考える人」という関係から見えてくるのは、いかに生きるか=人生の整理についての課題である。それは家族も含む他者の人生への想像力の問題であり、創作の根幹に関わるものでもあろう。=朝日新聞2025年4月5日掲載