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吉川英治文学新人賞の荻堂顕さん・坂崎かおるさん「我々は岐路に」 戦争と言論の自由への脅威を語る

吉川英治文学新人賞の贈呈式に出席した荻堂顕さん(右)、坂崎かおるさん

 第46回吉川英治文学新人賞の贈呈式が11日、都内で開かれ、受賞者の荻堂顕さんと坂崎かおるさんがあいさつした。

 荻堂さんは2021年デビュー。昨年、長編「不夜島(ナイトランド)」で日本推理作家協会賞を受けている。受賞作「飽くなき地景」(KADOKAWA)は、ある無銘の刀の美しさにひかれた男の周りで起こる事件を通して、戦後復興から高度成長にいたる東京の変貌(へんぼう)を描き、今年1月選考の直木賞候補作にもなった。

 荻堂さんは、米国でイスラエルのガザ攻撃に対する抗議活動を行った学生が次々と拘束され、言論の自由が脅かされている現状についてふれ、「我々は運良く小説を通じて社会に対して問題提起を行える立場にいます。何を書くべきなのか、何を語り継いでいくべきなのか。この場にいる全員が考えなすべき岐路に立たされていると感じています」と語った。

 坂崎さんは昨年、短編「海岸通り」が芥川賞候補になり、今回の受賞作「箱庭クロニクル」(講談社)を含む3冊の単行本を出した新人。趣の異なる6編を収めた受賞作所収の「ベルを鳴らして」は昨年の日本推理作家協会賞を受けている。

 同作は太平洋戦争前後の時代を舞台に、邦文タイピストの師弟の交歓を描いた一編。坂崎さんは荻堂さんのスピーチを受け、「どのような形にせよ、我々は戦争というもの、争いというものに無縁ではいられない。我々、文章を書く者たちは、倫理的にも、誠実さにおいても、無縁を決め込むことは、なかなか難しいと思っております」と述べた。(野波健祐)=朝日新聞2025年4月23日掲載