
ISBN: 9784622096474
発売⽇: 2025/02/13
サイズ: 19.4×3cm/648p
「遥かなる山に向かって」 [著]ダニエル・ジェイムズ・ブラウン
1941年12月の日本海軍による真珠湾奇襲攻撃以降、アメリカ国内の日系アメリカ人はどのような状況に置かれたか。これまで、収容所送り、敵国人扱い、日系2世部隊の戦闘など、いくつかの実相は語られてきた。
本書が特筆されるのは、4人の日系2世の口述歴史資料をもとに、各人の個人的体験を通していかに自己の尊厳を守ろうとしたかを、非日系のノンフィクション作家が著した点にある。
真珠湾攻撃時、ハワイの人口の約3分の1は日系アメリカ人であった。1世の辛苦が実り、社会に定着し始めていた。それが全て崩壊し、仕事は傾き、学生は学校にも行けず、数千人が逮捕される。枢軸側のドイツ、イタリアなどにはそういう処置はとられなかった。
ワシントン、オレゴン、カリフォルニア、アリゾナの各州に急ごしらえの収容所が作られ、手荷物だけを持ち一家全員が収容される。財産なども失った。迫害の実態が詳細に書かれ、類書とは異なる内実や、日本憎しの感情が凄(すさ)まじかったことを改めて確認できる。
信仰上の信念やアメリカ憲法の精神をもとに抵抗する日系2世、ゴードン・ヒラバヤシの生き方を追いかける。むしろ真のアメリカ人とは彼のような不屈の精神の持ち主を指すのではないかと思える。こういう抵抗型がもっといると思っていたとのゴードンの驚きには考えさせられる。
やがて編成される442部隊に、日系2世は積極的に参加する。アメリカ人としての誇りを果たそうとしつつ、1世の父親との確執も語られている。ハワイ出身と本土出身の2世の対立が激しく喧嘩(けんか)も日常茶飯事だった。差別がここにも現れるということであろう。
この部隊はヨーロッパ戦線で勇敢に戦い、犠牲者も増える。その規模と兵役期間からすると最も多く勲章を授与された部隊として名を残す。
本書には「戦争」の本質を問う重大な視点が込められている。
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Daniel James Brown 米国のノンフィクション作家。著書『ヒトラーのオリンピックに挑め』は映画化された。