評者: 酒井正
/ 朝⽇新聞掲載:2025年05月31日

反共と愛国-保守と共棲する民主社会主義 (単行本)
著者:藤生 明
出版社:中央公論新社
ジャンル:社会・政治
ISBN: 9784120058905
発売⽇: 2025/03/07
サイズ: 2.5×19.1cm/256p
「反共と愛国」 [著]藤生明
新進党への合流に伴って民社党が消滅したのは今から30年以上前。本書は、バランスの取れた記述によって、その民社党の成立と解党までの経緯を整理し、その後の「新しい歴史教科書をつくる会」等の保守運動に連なる同党の系譜を追った労作だ。労働組合を支持母体としていた民社党は「反共」を旗印に躍進したが、その政策は多分に保守的であり、時に「行革与党」すら看板に掲げた。自民党の立場との違いも曖昧(あいまい)で、労働運動と右派の共棲(きょうせい)を可能にしたのは、反共という一点のみだったように評者には思えた。共産主義の脅威が現実味を失うと、必然的に党勢は衰えていった。
だが、反共は今でも時々、頭をもたげる。著者は、現在の連合が、反共を理由に労働組合の真のナショナルセンターになり得ていないと手厳しい。
現在の国民民主党を民社党に準(なぞら)える向きもあるようだが、両者は労働組合の支援など異なっている面も多いという。とはいえ、選挙がネットの人気投票という色合いを帯びつつある中、この労働政治の史実を若者にも知ってほしいと感じた。