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柳家三三さん「風まかせ十二カ月」インタビュー しなやかな出たとこ勝負

柳家三三さん

 高校卒業と同時に柳家小三治に入門し、今年で芸歴33年。持ちネタを磨き、新ネタに挑み、新作にも意欲をみせる人気落語家が、12カ月にわたって雑誌に連載したエッセーをまとめた。

 軽やかな語り口そのままにぐいぐい人を引き込む文章は、会場を掛け持ちする多忙な中でつづった労作。「広告の裏に下書きして、原稿用紙に下書きして、さらに原稿用紙に清書して。『ですます調』で字数を稼いで……」

 落語が好きな人にも読み応えがあって、たまたま手に取った人もふーんと読める文章を、と心がけた。落語や寄席の楽しみ方、先輩や仲間との思い出、人気演目の成り立ち、名人ごとの演じ方のつぼなどを縦横につづる。

 落語愛が随所ににじむが、「伝統を守りたい、とか、あふれる思いというものは、ないんです。そもそも自分が落語をやるのも、自分がしゃべってお客さんに楽しんでもらえれば、時間つぶしの役に立てるからで……」。

 大上段に振りかぶって芸論を語りはしない。だが、大師匠・五代目柳家小さんの「笠碁」や師匠・小三治の「青菜」を振り返る筆致はこまやか。

 せんべい屋の店先で立川談志に呼び止められた時の話にもゾクゾクさせられる。半月ほど前に会心の「芝浜」を演じた談志。その時の心境を語り聞かせる大先輩に投げかけたのは、何とも大胆な質問。「談志信者ではないから言えたことでしょうね」。談志は怒るでもなく、「まあ、悪い体験じゃあなかった」と言って口をつぐんだという。

 芸の世界を掘り下げつつ、「どう受け取るかは、聞く人それぞれ。信念といっても自分の場合、誰かに『それ違うよ』と言われたら『あ、そうか』とすぐ変わる。インタビューでしゃべった考えも、載るころには違ってますよ」

 出たとこ勝負の風まかせは、ぽきりと折れないしなやかさとも言える。「信念は、なくてもいいのでは。目の前のお客さんが喜んでくれる、自分が満足感を得られる、それが自分にとっての落語。みんなが一生懸命やった結果として残れば、それでいいんじゃないでしょうか」 (文・藤崎昭子 写真・慎芝賢)=朝日新聞2026年4月25日掲載