都会「箱の男」 不確かな存在が変える家族の形
住宅街で、箱に入った男の遺体が発見された。それより十数年前、5歳の由美子は、幼稚園で描いた箱の絵を指し、「パパだよ!」と無邪気に笑って周囲を凍り付かせていた。母は幼い由美子に、父は心の風邪で外に出られないのだと説明していたが――。
シンプルなコマ割りとほのぼのタッチで描かれるのは、予想外の展開をみせるダーク・サイコサスペンスだ。
物語は由美子の成長を軸に進む。やがて、思春期に差し掛かった彼女は、社会との接点が増え、家庭に巣くった異常性に気付くが、箱の中の父も母も多くを語ろうとしない。しかし、物語の途中で差しはさまれる父母それぞれの視点の物語には、今の状況を作り出した経緯や渦巻く胸の内が記されており、その構成に引き込まれた。
ところで、「私」という個人は、社会というものに四方八方を囲まれているものだ。それが、「箱」という壁によって全ての社会的接点から遮断された時、「私」は以前の私のままでいられるものなのだろうか?
「箱」が揺さぶるのは、個人の帰属意識だけではない。その影響は、思いもよらない形で波及し、読む側の善悪の壁をも揺さぶってくる。「箱」が及ぼす作用の全容は、ぜひ本編で。=朝日新聞2026年4月4日掲載