
ISBN: 9784120058943
発売⽇: 2025/03/07
サイズ: 2.5×19.1cm/256p
「わたしは楳図かずお」 [著]楳図かずお

楳図かずおさんの本名は楳圖一雄です。僕より68日遅れの昭和11年9月3日誕生の子(ねずみ)年です。2人の共通点は豆が大好きなことで、あとは強いて言えばインファンテリズムぐらい。彼の幼年期を形成したのは母親の、虚実を超越して彼を捨て子のように思わせながらこれでもかと彼の魂に恐怖を移植したことです。これによって彼は日本中を恐怖のどん底に堕(お)とし逆転させた「へび女」や「おろち」「イアラ」で人間の膠着(こうちゃく)を計り、母親は楳図さんをついに漫画界の寵児(ちょうじ)に押し上げました。そんな楳図さんが高校時代にすでに芸術漫画を描いていたのです。特に「ハッパ」と題する作品は今日の具象・抽象を凌駕(りょうが)した漫画ではないMANGAによってARTを先取り、と言えば少々口が滑ったが、そんな彼のデビューした頃の作品「森の一夜」も「ハッパ」も本書の巻頭に再録されていて、彼の早熟ぶりに舌を巻いてしまうのです。彼は88年の人生の最晩年に過去の漫画を断捨離して、突然芸術家宣言をし、漫画の輪廻(りんね)を断ち、彼の「逆転の思想」によって見事芸術家に転生、不退転者として未来に昇華してしまいました。彼の漫画から絵画へのメタモルフォーゼ&デペイズマンは、死の間際に漫画への執着を断ち切って、あの名作「漂流教室」の「翔(しょう)」のように未来の彼方(かなた)へ飛翔してしまったのであります。そんな彼は生まれながらに、大人になりそこなった「まことちゃん」かピーターパンのように、人間からも社会からも時間からもズレておりました。このズレこそが楳図かずおに神と悪魔の子「まことちゃん」を誕生させました。「グワシ‼」。楳図かずお本人が楳図かずおを演じて、あの知らない人がいない赤と白のボーダー柄で隣近所から顰蹙(ひんしゅく)を買い、同時に大衆の称賛を受けた彼は、「わたしは楳図かずお」以外の何者でもないのです。繰り返します。「わたしは楳図かずお」以外の何者でもないのです。
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うめず・かずお 1936年生まれ、2024年10月死去。マンガ家。代表作に「漂流教室」「わたしは真悟」「まことちゃん」など。
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横尾忠則さんがアートで表現した書評です。