
ISBN: 9784394980162
発売⽇: 2025/04/30
サイズ: 13×18.8cm/300p
「昭和的」 [著]関川夏央
昭和って苦くしょっぱいものなんだ。久しぶりに関川夏央の本に出会い、「昭和は遠くなりにけり」と達観したかと思ったら、明治維新後の「天保の老人」のように、実はいまも「昭和的」であり続ける人々の「やがて悲しき昭和の物語」が確固として存在することを知った。「昭和的」と哀愁をもって語られる人たちが、関川の一定のシニカルな文章の中でよみがえる。南伸坊の挿絵もぴたりと決まっている。
山田風太郎、黒澤明とその周辺の人々は、狂言回しのように随所に現れる。小説を書く、映画を作る等々、関川が有名無名の「昭和人」をとりあげる基準はあるのか。何かを作り出そうとした芸術家風の創造的な人物ばかり。政治家や官僚や会社人間は入らない。しかし藤沢嵐子(らんこ)、ヤマザキマリ、狩撫麻礼(かりぶ・まれい)、高橋秀実といった渋い「昭和人」を追うと、一筋縄ではいかぬ「昭和的」なるものにズブリとはまる。
彼は言う。日本は70年に高齢化社会に達した、と。そして「日本社会の70年代とは、がさつではあったが勢いがあって、『意地悪』な年配者の存在を許さないほど多忙であった」と。
実は老化とボケが進む「昭和人」を若者たちは平気で退けていく。関川の怒りは、小津安二郎の映画を「少しだれた」「スピード感が欲しかった」と評した若者に「何を生意気な」と向けられるも、「仕方ないか」とすぐ脱力してしまう。
また関川は、赤軍派の運命にも思うところがある。重信房子は短歌に生き、よど号ハイジャックの面々は「時間の氷河に閉じ込められて五十余年」。70年代が刻んだ時の流れに関川は考え込む。そして、ほぼ各文章のまとめに警句をはさむ。「若いということは愚かということだ」「老いは、老いてみなければわからない。老いても自分の客観像は見えない。客観像がうっすらと見えても、本人は認めない」。その通りだからイヤになる。
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せきかわ・なつお 1949年生まれ。作家。著書に『二葉亭四迷の明治四十一年』、共著に『「坊っちゃん」の時代』など。